女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss
  • ブックマーク

特集 LGBTー映画にみるゲイ

2015年8月16日

特集 LGBTー映画にみるゲイ147
レズビアン・ヴァンパイア・キラーズ(2009年 ゲイ映画)

Pocket
LINEで送る

監督 フィル・クレイドン
出演 ジェームズ・コーデン/マシュー・ホーン

ゲイとヴァンパイア

みごとなおバカ映画でした。ヴァンパイアは繰り返し映画化されてきた斯界の大スターです。なぜヴァンパイアは人気があるのでしょうか。たぶん「禁断の愛の危険な香り」でしょうね。ちょっとあげるだけでも「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」「ブラッディ・パーティ」「アンダーワールド」「ぼくのエリ200歳の少女」「ドラキュラ」「モールス」などがあります。ヴァンパイアって概して美男美女の俳優が演じていますね。伝説によるヴァンパイアの特徴は痩身に男女を問わぬ色白の美肌。なんでか。そりゃそうでしょ、彼らの食事は人間の生き血ですから、餌を引き寄せるためにも際立つ美貌とスタイルが必要なのよ。だれもふりむかない平凡ないでたちだと網が張れないのよ。だからヴァンパイア(ドラキュラ)役者って得てして美形だわ。古典的な配役からいうとクリストファー・リー、ヴァン・ヘルシング、ピーター・カッシング。最近になってトム・クルーズ、デビッド・ボーイ、カトリーヌ・ドヌーヴ、キアヌ・リーブスの「ドラキュラ」では怪人ゲイリー・オールドマンがドラキュラ伯爵で、伯爵の花嫁はモニカ・ベルッチという華々しさ。ミュージカルだとジュンスがやばいほどきれいなドラキュラに扮しています。名だたる映画とスターを並べるまでもなく、ドラキュラとはカリスマ的存在なのです。以上の要素が本作にあるか…ないですな▼それはそれとして話を進めましょう。ドラキュラの二大モデルは「血の伯爵夫人エリザベート・バートリー」とヴラド・ドラキュラ。エリザベートはハンガリー王国の貴族(1560ー1614)だ。若い少女の血に若返り効果があると信じ、約600人を斬殺した。この残虐行為が古くからある「吸血鬼伝説」と結びつき、彼女自身に吸血鬼のイメージが貼付されたと思われます。彼女の連続殺人が世間に露呈し、裁判の結果自分の城に幽閉され、54歳で世を去った。ヴラドは現在のルーマニアにあった国のひとつワラキアの大公。敵味方の区別なく意に沿わない者を処刑した。別名「串刺し公」。本作に登場するカーミラはエリザベートをモデルに、ゴシック・ホラーの元祖レ・ファニュが創作した女性吸血鬼です。黒いフロックコート、山高帽、ステッキといった定番ドラキュラ伯爵ではなく、女性としたことに斬新さがありました。カーミラがターゲットとする相手もすべて女性であることから、レスビアニズムあふれる作品となっていますが、当時のことゆえ露骨なセックスの描写はなく控えめです。それにひきかえ本作では、やたらガバガバ女同士が抱きあっていますが、せめてゴシック・ホラーの名作と呼ばれる原作の香りくらいは残してほしかったと思います。ヴァンパイアの里にガールハントに行く主人公、フレッチ(ジェームズ・コーデン)とジミー(マシュー・ホーン)は女の子をみれば血が騒ぐ「さかり」真っ盛り。相手がヴァンパイアだとわかれば棒で串刺しにする。首を刎ねる。首から白い体液が噴出しヴァンパイアはしぼんでしまう。ふたりのヴァンパイア退治によって殺された女性はみな生き返る、という映画です。本作の話はこのへんにして話題を変えます▼なぜゲイとヴァンパイアは相性がいいのか。おおむね日常から逸脱した女の存在として魔女や魔法使いがこしらえられように、レ・ファニュの作ったヴァンパイアもまた女しか愛さず愛した女を犠牲にする残虐者であり逸脱者でした。レ・ファニュのカーミラは貴族の家に生まれ教育を受け知的であり、その能力が逆に彼女を社会から阻害したかのように見えます。カーミラとはミステリアスな少女で、小説の語り手であるローラと生活を共にしながら自分の身の上にふれません。ローラはカーミラが好きで仕方なくなります。カーミラはローラに過剰なスキンシップをしながら耳元でささやく内容は生死に関することだけ。青白く痩せ昼近く起きてチョコレートを一杯飲む。賛美歌に異常な嫌悪感を示し気絶しかける。カーミラの犬歯は針のようにとがって鋭い。ローラはカーミラの愛撫を受けながらなにかに襲われるような錯覚を覚える。ヴァンパイアとは社会に受け入れられないアウトサイダーであり、マイノリティであり、彼らに与えられたダークサイドはとりもなおさず、当時ゲイが社会に位置づけられていたそれと相似していました▼さてここにわたしの大好きな画家、ロメーン・ブルックスの「イダ・ルビステイン」の肖像があります。痩せて薄い肩、細い長い首、黒いたっぷりしたコスチュームに白のスカーフがなびいている。スカーフはレースのような透明感がある。視線は右前方に固定され、彼女はなにか見つめているが、表情は気難しい。薄い口元を自然に閉じ額の白いバンダナが小さな顔と頭を際立たせている。背景に浮かんだ雲は、画家がまるで途中で嫌気がさしたように、描き方がぞんざいである。イダはロシア生まれのバレリーナ。ロメーンとイダはパートナーの関係にあった。ロメーンはアメリカからパリに渡った画家で、華やかな世紀末のパリ画壇とほとんど交渉をもたず描きたいものだけを、栄養失調のような女を描いた。イダをモデルに何点か描いている。有名なのはイダがベッドに横たわる「悲しめるヴェヌス」だろう。イダのわがままにはロメーンも手を焼くことがしばしばで、イダがモデルを放棄したための未完の絵(「陵辱された女」)さえある。ロメーンの描く、痩せてとんがった女が放つ冷たいエロチシズムは、そのホネホネした触感までわたしたちに伝えてくる▼なにがいいたくてこんなことを書いたのかというと、レ・ファニュのヴァンパイア、カーミラを想像した時、ロメーン・ブルックスの肖像画がふと浮かんだからだ。貴族的な容貌、倒錯した性格、エゴイストにしてサディスト、退廃とミステリアス。そもそもヴァンパイアとは超現実的・反社会的・非友好的存在であって、明るくにこやかで健康な「隣のお姉さん」ではなかったのである。

Pocket
LINEで送る