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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2015年8月23日

特集 LGBTー映画にみるゲイ154
ペトラ・フォン・カントの苦い涙(1972年 ゲイ映画)

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監督 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
出演 マーギット・カーステンゼン/ハンナ・シグラ

ヤな監督だわ

ペトラ・フォン・カント(マーギット・カーステンゼン)は成功したファッションデザイナーだ。斯界でしかるべき位置を占めています。二度の離婚をへて娘がひとり。アトリエ兼オフィスの優雅な住まいの部屋の壁一面に、プッサンの「ミダス王とバッカス」が描かれています。いうまでもないが基調の色は赤です。これが気色悪いのよね。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーは「ケレル」でも赤々とした日没のオレンジ色をベースとしました。この世の終わりの告げる煉獄萌えみたいだったわ。ミダス王とは触れるものすべてが黄金に変わるよう神様に頼んだ王様で、願いがかなったために飲み物も食べ物も口にできなくなる。餓死しそうになった王はバッカスに詫び、もとにもどしてもらった。こういう強欲な王の絵をデカデカと壁画にするヒロインの神経がよくわからんが、本作が暗示するキーワードのひとつは間違いなく「愚かさ」かもな、と思わせながら映画は始まっていきます▼室内劇です。登場人物は女性のみ。場所はペトラの部屋に限定されます。口がきけないマレーネという若い助手がいて、デザインの草案のスケッチもやれば手紙もタイプし、お茶だ、ジンだ、食事だと口やかましいペトラの身の回りの世話いっさいをする。ペトラはマレーネをペット以下に扱っている。耳は聞こえるマレーネに「使用人にはそれなりの扱い方があるわ」と憚りもなく言う。マレーネはペトラを見つめるだけだ。ペトラの縁戚にあたるシドニーが23歳のカーリン(ハンナ・シグラ)を紹介する。ペトラは「あなたはモデル向きの体型よ」とほめちぎり(ぽっちゃりしているし、脚も太いし、とてもそうは思えないのだけど)急速に接近していく。カーリンは夫がいて別居、離婚する手はずだと言う。ファッションにせよ、インテリジェンスにせよ、洗練されているペトラと、もっさりした垢抜けないカーリンが意気投合するのは不思議としかいいようがないのだが、ふたりは同棲になだれこみ何ヶ月かたった▼カーリンはしどけなくベッドに横になり「カーリン、飛行機のキャンセルはしてくれた?」ときくペトラに「悪いけど寝ていたいの」というトンデモ返事。「いいわ、わたしがやる」そのやりとりをみていたシドニーが「この娘、頭がヘンじゃない?」と耳打ちする。「いいの、わたしを愛しているのよ」とペトラ。カーリンは朝からベッドでジントニックをあおり「肥満に気をつけて」ペトラが注意すると「くそくらえ、よ」。でもペトラはめげない。「美しい肌、美しい髪、美しい肩、愛しているわ、愛しているわ」とキスしようとする。カーリンは顔をそむけ「よして。歯を磨いていないわ」「かまわないわ」「わたしはイヤ。雑誌を読みたいの。一日中ベタベタしておれないわ」「しておれるわよ。どうしてそう残酷なの。カーリン、お願い、隣に座らせて」。これファスビンダーの原作・脚本による舞台劇の映画化です。だからセリフ劇です。ふたりの女のやりとりだけでもたせる映画です。カーリンの夫がチューリッヒからくる。「あなた、離婚すると言ったはずだけど」ペトラの声が険しくなる。「するつもりだと言ったの」「あなたってチンケでゲスな淫売ね」「そう思う?」「そうよ。見るだけで吐きそう」「わたしが去ればうれしいでしょ」「もう遅いわ。街娼にならなかったのが不思議ね」「あなたはらくな相手だったもの」こうくるとカーリンの「一本」である▼夫を迎えにいくからフランクフルト行きの便を予約してくれと言う。ペトラがルフトハンザに電話すると満席だ。ファースト・クラスなら空いているといわれ、ペトラは申し込む。自分自身に歯がみしながらペトラは「わたしを騙したのね」「いいえ、愛しているわ、ペトラ、わたしなりに愛しているの」「なんでもする、あなたが必要なの、この世であなたしかいない、カーリン、あなたがいなくては孤独すぎる」「淫売がいないと孤独?」「許して」「急ぐのだけど」。言われてペトラはカーリンに唾を吐く。カーリンは平静に「やってくれたわね。一生後悔するわよ」▼カーリンは男と出て行った。ペトラはひとり部屋に残されて数ヶ月。カーリンはトップモデルとなり世界中を飛び回っている。ペトラの35歳の誕生日を祝うためやってきた母親、シドニー、娘のガビにペトラは当たり散らし「カーリンを狂いそうなほど愛しているの。この苦しみがわからないの? ふたりで幸せになれたのに、でももう遅い」。その狂乱ぶりに、娘が不思議そうに言う。「ママ、わたしあの人好きじゃない」「?」「だってあの人、なんだかフツーの人だもの」「そうじゃないわ」ペトラはむきになって抵抗するが、少女の目にはカーリンの凡庸さが見えているのだ。母親はペトラが愛する対象が女性だとわかって口が利けない。やがて夜。酔いつぶれていたペトラに母親は「人はだれしもなぐさめが必要なの。神なしでは孤独だわ」「それはなぐさめじゃない。要求せず愛さなくては。わたしは彼女を所有したかった。それも終わった。つらい経験をしたけど」そこへ電話。カーリンからだ。静かに聞いていたペトラは「いろいろあったけど、過ぎたことよ。いつかあえるわ」そう言ってきり、「落ち着いたわ、ママ、もう帰ってくれていいわ」▼ペトラはカーリンの声を聞いただけで自分を取り戻します。カーリンはたぶんまた会いましょうとか、やさしい調子で言ったのでしょう。ペトラにはうれしかった。カーリンの不在と空虚が彼女を狂わせていたのですね。ペトラはマレーネにもこう言います。「いろいろ悪かったわね。マレーネ。今後は本当のパートナーになりましょうね。あなたに必要なのは自由と喜びよ。あなたのことを教えて」。マレーネは黙々と部屋を何度も横切り、大きなトランクに衣類を詰め、ピストルや人形までおしこみ、スタスタと出て行く。ペトラはひとりで取り残されエンド。どこまで女に冷たいファスビンダーでしょう。もうちょっとなんとかしてくれよ。恋情もここまで赤剥きにされると挨拶のしようがない。ヤな監督です(笑)

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