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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2015年8月25日

特集 LGBTー映画にみるゲイ15
6そして、私たちは愛に帰る(2007年 ゲイ映画)

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監督 ファティ・アキン
出演 ハンナ・シグラ/パトリシア・ジウルコフスカ/バーキ・ダブラク

心澄む思い

ゲイが物語の本筋ではありませんが、ヒロインふたりのその関係がなかったら本作は成り立ちませんので、あえてゲイ映画としました。「ソウル・キッチン」「愛より強く」のファティ・アキン監督らしい、冷たい過酷な現実の中に、生きる辛さと人生への慈しみがにじむいい映画です。ヒロインのひとり、ドイツ人女子大生のロッテ(パトリシア・ジウルコフスカ)の母親、ズザンネを演じるハンナ・シグラがいいですね。「マリア・ブラウンの結婚」「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」「ベルリン・アレキサンダー広場」など、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーと組み、ドイツ映画の名品を世に送り出した女優です。本作では、娘ロッテが愛したトルコ人の女子大生アイテンの刑務所からの出所を助け、それどころか、そもそもアイテンが原因でロッテが殺されてしまったのに、嘆きと悲しみに耐えアイテンを許す母親を演じています▼一組の父と息子、二組の母と娘の愛と死と出会いが、ドイツのブレーメン、ハンブルグ、トルコのイスタンブールを舞台に織りなされる。初老のトルコ人アリはブレーメンでひとり暮らし。一人息子のネジャット(バーキ・ダブラク)はハンブルクの大学でドイツ語の教授をしている。アリは街角で娼婦イェテルをみかけ、気が合う。いっしょに住んでセックスして話し相手になってくれたら、なにも束縛しない。イェテルはイスタンブールの大学にいる娘アイテンの学費のためなら「何だったやる」のだ。アリはハンブルクから息子が帰り、教師として身をたてようと努力している娘アイテンに、娼婦の身で生活をきりつめ仕送りしているイェテルに同情する。息子とイェテルが仲良くするのに嫉妬した親父が、イェテルに手をかけ、彼女は心臓発作で死んでしまう。ドイツにおけるトルコ人の移民は多く、EU大国のドイツに対して非加盟のトルコは政治的にも経済的にも困難を強いられている。イェテルの娘アイテンはイスタンブールで反政府過激派グループに入り、政府の追及から逃げるためにハンブルグに不法入国する。たまたま隠れた大学で講義していたのがネジャットで、受講する学生のなかにロッテがいた。こうして「運命の糸」は次第に絡み合っていく。ロッテはお金を貸してほしいと初対面で話しかけたアイテンに惹かれ、食事させ、家に連れてきて服をきがえさせる。母親ズザンネは、アイテンの過激な思想と不遜な態度に、投げやりで危険な匂いを感じるが、ロッテは彼女と一線を越してしまった。ある日ふたりはパトロール中の警官の尋問にあい、不法入国がばれたアイテンはトルコに強制送還される。ロッテは「アイテンを助けられるのは自分しかいない」と、2000キロ離れたイスタンブールに旅立つのだ▼悲劇が襲う。数ヶ月ののち、アイテンが隠した拳銃を取りにいったロッテは、拳銃を持ち帰る途中、バッグをひったくった少年らを追いかける途中、バッグの中に拳銃をみつけた少年らに射殺される。ロッテがアイテンの面会に通うため、探し当てた下宿は本屋の2階だった。その本屋とは、大学を辞めたネジャットが買い取った店だった。彼は意に染まぬ大学の職を辞し、イェテルの代わりにアイテンに学資支援したいとイスタンブールに帰郷し、チラシを貼るなどしてアイテンの行方を探していたのだ▼娘の死を知ってイスタンブールに来た母親は、娘が数ヶ月下宿したというネジャットを訪ね、娘の起居した部屋に投宿する。娘の遺品を確かめ、ジャケットに残った匂いにむせび床に身を投げて嘆く。ネジャットは悲しみに気丈に耐えるズザンネに好感を持ち、やっと「お腹がすいたわ」といったズザンネを、喜んでレストランに連れて行くと目もあざやかな皿の数々を運ばせる。このあたり、やっぱり「ソウル・キッチン」の監督ですね(笑)。ふたりは少しずつ打ち解けていく。ズザンネは娘のことを、ネジャットは父親のことを…信仰を試すため息子を殺せといった神様がいた、その父は幼い息子の上に刃をふりかざし、突き落としたとたん刃の先は丸くなり、神は父親の忠誠を確かめ、息子の代わりにヒツジを捧げさせた。「パパもぼくを捧げる?」とネジャットが聞くと「お前を守るためなら神だって敵にまわすさ」と親父が答えたことを思い出していた。彼は数日の店番をズザンネに頼み、海辺で釣りをしているにちがいない老父のもとに車を走らせる。弁護士をみつけ身元引受人になり、アイテンの出所に尽力したズザンネは、自分の部屋に居てもよいとアイテンにいう。許してほしいと泣くアイテンに「もういいのよ。ロッテが生きていたらしたことをわたしはしているのよ」アイテンを助けることで母親は娘といっしょに生きている…でもこうはなかなかいえませんよねえ。立派だわ、お母さん。ズザンネはあるときベッドに腰掛けている自分をみて微笑むロッテの幻を見た。ロッテは日記に書いていた。「ママは今のわたしに驚くはず。わたしはママが望んでいたわたしと違ってきた。でもママはそれを喜ぶにちがいない」。見ていてつらくもあるけれど、心澄む思いのする映画です。原題「天国のほとりで」。エンドクレジットの献辞にあるアンドレアス・ティールは、本作や「愛より強く」のプロデューサーです。

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