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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2015年8月29日

特集 LGBTー映画にみるゲイ160
人生はビギナーズ(2012年 ゲイ映画)

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監督 マイク・ミルズ
出演 ユアン・マクレガー/クリストファー・プラマー/メラニー・ロラン

とまどう愛

べつに嫌味がてらに言うのではないのだけど、実感としては「やっぱりいい映画なのだと、マアいうべきなのでしょうねえ」という、どうも歯切れの悪い感想になってしまうのだ。どこがどう気に入らないというところはないのだけど、とらえどころがないまま、サラサラとお話が進んでしまうのよね。物語の軸は3本。恋愛奥手の主人公オリヴァー(ユアン・マクレガー)が、フランス人女優の卵アナ(メラニー・ロラン)と出会う。オリヴァーは75歳の父ハル(クリストファー・プラマー)からゲイだとカムアウトされ、うろたえるが父は恋人とはつらつと新しい人生を歩み始め、ゲイ仲間に看取られガンで死んだ。カムアウト後の4年が、父の人生で最も幸福だったとオリヴァーは思う。父と母の間に自分が生まれたのは愛の結果か。父は母を愛していたというが、オリヴァーの記憶にある母はどこかさびしげで屈託があった。両親の愛情の狭間にいたオリヴァーは、恋愛に懐疑的になる自分をどうしようもない。この映画は「とまどう愛」があふれている▼以上の3本柱が回想をまじえ、入れ替わり立ち代わり、オリヴァーの人生行路を照らす。センスのいい映像がきれいだし、主演3人も適役だ。でも繰り返すけど、よくわからない映画なのだ。いちばん「わからない」中心にいるのはオリヴァーである。38歳にもなって、女性との出会いも別れも、それなりに経験済みであるのに、しかも出会ったアナに、自分と同じ恋愛懐疑派体質を感じ、一時はいっしょに住むにもかかわらず先に進まない。グダグダ言っているうちにアナもすっかりペースに同調し、見切りをつけてニューヨークへ行っちゃう。彼の職業はイラストレーターで、描く絵、描く絵ことごとく、よくいえば繊細だけど、単に鬱陶しいだけでもある。ベッドを共にしているにもかかわらず、ひとつも楽しそうでないパートナーの顔をみていれば、女がつまらなくなるのは無理ないでしょ▼ぶつぶつ書いてきたが、この映画のセリフはキレがいい。冒頭こんな父親のモノローグで始まる「わたしはゲイだ。母さんを愛したがこれからはその方面を究めてみたい。気持ちの上だけではない、実践したいんだ」息子はそれを受け「父は服装も変え、恋人もできた。アンディだ。トレーナーで花火師の資格をとるため勉強中だ。父はゲイの神父に導きを求め、セラピーにも通い、ゲイクラブに入り、映画の会やLAプライドにも参加、カムアウトの4年後この部屋で死んだ」。オリヴァーの母は、答えにくいことを息子が質問すると逆にこう聞く。「あなたFBI? CIA? KGB?」「なぜ人間に詳しいの」「人の顔をよく観察すればわかることよ」。母は母で夫に対し、諦めた人生を生きていたのだ。オリヴァーは今まで恋人ができても長続きしなかった。すぐ破局する原因が、女性に積極的になれず疑い深い自分にあるとわかっている。父に相談すると「広告で求人したらどうだ」。オリヴァーは「父親としての助言が広告を出せか?」あまりに即物的なアドバイスに呆れるが、父親の意図はちがった。「お前はライオンが欲しいと思っていた、そこへキリンが現れた、ライオンをあきらめひとりぼっちで過ごすかキリンを選ぶか、お前はどっちだ」「ぼくはライオンを待つ」「だから心配なのだよ」▼息子は恋人と過ごす「初めて見る、恋する父の姿」に感動する。それにひきかえ自分は…ある日アナに言われる。「不幸そうね」陰気な顔でオリヴァーが答える。「君は幸せか。ぼくとここにいて」「完璧とはいえないわ。なにをしているか自分でもわからない。でもここにいたい」。こういう愛の告白もあることを、悩むことの好きな、じれったい恋人同士はなかなか認めようとしない。あげくアナはニューヨークに去り、オリヴァーは嘆き悲しむのかといえばそうでもなく、新しい恋人をつくるのかといえばそうでもなく、始めから終わりまで淡々とこの映画は進行するのである。ある日戸口に人の気配がして、ドアを開くとアナが立っていた。ニューヨークから帰ってきたのだ。いったいなにしに行ったのだとききたくなるアホらしさ。「淡々」もここまで来ると、いきさつなどどうでもいいから(もう勝手にしな)といいたくなった観客は、決してわたしだけではないと思う。新しい人生に踏み出した父親に、とまどいつつ、その幸せを羨みつつ、それでも勇気をもらった息子は(アナにしてもオリヴァー同様煮え切らないのだが)やっと再出発する気になる。ユアン・マクレガーの「不幸顔」に辟易し、何度も早送りしようと思ったけど、そのつどクリストファー・プラマーの「幸福顔」に気を取り直し、最後まで見たわ。

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