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特集「ベストコレクション」

2015年9月7日

特集「秋の夜長のベストコレクション」⑦やさしい本泥棒(2015年 群像劇映画)

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監督 ブライアン・パーシヴァル
出演 ジェフリー・ラッシュ/エミリー・ワトソン/ソフィー・ネリッセ

命の鍵

2014年日本公開が決まっていたのになぜか未公開となり、DVDが2015年発売されました。原作はマークース・ズーサックの「本泥棒」です。こっちの方が簡潔でよかったですね。本を読むことが人生を救う、作者の素朴な信念はこの一点に尽きます。なぜか。本を読むことによって養われるのはイマジネーションの力である、ものごとや状況を思い描く力が、どんな困難な状況にも自分を見失わず、自分の考えを伸ばすエンジンとなる。それによって人は誤った道を回避し、あるべき自分らしさを取り戻すのだ、たとえば…とこの物語は始まるのです。1938年から1945年、第二次世界大戦で遭遇した未曾有の困難の時期を、本を読むことで生き延びたヒロインのように…そう語るナレーターが死神であるというユニークな設定です。本を読む、自分自身の言葉を真っ白なページに書く。読むことによって書き、書くことによって自分に気づいていくことが人間なのだ、読書に、言葉に、本に寄せる、かくも明晰な信頼がこの映画の背骨を貫いています▼映画は群像劇の形をとり、戦争下の数組の家庭と家族、彼らの奪われた生と死が描かれます。リーゼル(ソフィー・ネリッセ)はミュンヘン近郊の田舎町に里子にだされた。共産党員だった両親は軍部による赤狩りから逃亡を余儀なくされ、父も弟も死んだ。リーゼルを迎えた夫婦は初老のハンス(ジェフリー・ラッシュ)とローザ(エミリー・ワトスン)。ふたりの役者の組み合わせが絶妙だ。ハンスは失業者で暇があればアコーデオンを弾く姿がもの哀しい、嫁のローザは稼ぎの悪い亭主をこきおろし、口やかましく愚痴ばかり吐き散らす主婦、といういでたちで現れる。でもじつは、ハンスはナチへの入党を断り続けているために満足な職にありつけず、僅かな手間賃でペンキ塗りを引き受け、人間の価値は約束を守るかどうかにあると、乏しい時代の困難を精神の試金石にするような硬派だ▼ローザはやさしいくせにそれを見せまいと突っ張る気の強い母親。夫が家にかくまったユダヤ人の青年マックスを、家族の食事を二食に減らしてでも世話し、病気になった彼がもう死んじゃう、となったときに言う。「2年間もひもじい目を我慢してきたのに、死なれちゃ困る!」。マックスが意識を回復したとき、ローザは矢も盾もなく学校へ走り、わざと教室に怒鳴りこんでリーゼルを呼び出す。こわごわ出てきたリーゼルを廊下のかげに寄せ「ごめんよ、怒ったりして。でもマックスの意識がもどったのだよ、もう大丈夫だよ」ふたりは小躍りし「さ、教室に戻って。笑顔を消す手伝いをしようか?」ローザは再び大声でリーゼルを叱り、教室をあとにする。マックスをかくまった地下室に、雪を運び込んで父母、娘、マックスが物置みたいな狭いところで雪合戦をする。ローザは「こんなバカなことするの生まれて初めてだよ」いいながらいっしょに笑う。いい家族だった。地下室の壁にはアルファベットの大文字・小文字が書いてあった。読み書きできなかったローザのためにハンスが教えたのだ。リーゼルが弟の形見だといって、後生大事に持っていた本は「墓掘り人の手引書」だった。子供が読むはずもない本を持っているのをみて、字が読めないと知ったハンスは毎晩いっしょにリーゼルと本を読むことにする▼リーゼルは学校で、自己紹介のため黒板に名前を書くことになったが字が書けない。下校時バカよばわりした男子のフランツを張り飛ばし、馬乗りになって殴る。隣の家の金髪の少年ルディは、一目見た時からリーゼルが好きだった。「君はケンカが強いね」とリーゼルに話しかける。「わたしは字が読めないだけでバカじゃないわ。フランツは頭が悪そうね。あなた、わたしと友達になるの、やめたほうがいいわ。ここには長くいないから。逃げ出すの」「そのときは言って。いっしょに行くから」。ルディはリーゼルとキスしたくて仕方ない。走りの競争に「ぼくが勝ったらキスしてくれる?」「わたしが勝ったら?」「キスしなくてもいい」。彼は紳士だ。リーゼルのいやがることをなにひとつせず、希望をかなえてやろうとする。厳寒の川にもぐり、悪童が放り込んだリーゼルの本をみつけてやる。この本というのがマックス手製の白紙ページの造本で、リーゼルに贈るとき彼は言う。「言葉は命だよ。白いページに君の言葉を綴って。ボクの宗教の教えでは、命あるものはすべて、葉っぱでも小鳥でも命の鍵となる自分の言葉を持っている。それが生き物とただの土の違いだよ」。白い本の冒頭には一言「Write」(書け)とあった。ユダヤ人の詮索がますます厳しくなり、ハンス夫婦は真夜中に外套と毛布と、あるだけのチーズをもたせてマックスを逃がした▼町長夫人は書籍を危険物だとして焼却した焼け跡で、こっそり本を持ち去るリーゼルをみかけた。彼女が偶然洗濯物を届けに来たとき、息子ヨハンの部屋に招じ入れる。戦死した彼の部屋は図書館のような蔵書があり「ヨハンはこれを全部読んだの。記憶は魂の筆記だとアリストテレスは言ったわ」。リーゼルは夫人の許可を得て、読みたい本を読ませてもらえた。戦況は激しくなりハンスが徴兵された。ハンスは駅頭へ見送りにきたリーゼルに言う。「母さんを頼んだぞ。みかけほど強くないからな」「知ってる」。ハンスが負傷し帰還したのは幸運だったものの、ある日町は誤爆され、住民たちは避難する間もなく死ぬ。父も母もパジャマのまま瓦礫の下から遺体で発見された。ルディはかろうじて息をしていた。手を握りよびかけるリーゼルに何か言おうとする。「黙って。救急班が来るわ」「いいや、言いたいんだ、僕は君が好き…」ルディは息をひきとる。リーゼルは今度こそルディを抱きしめ、長いキスをするのだった▼1945年終戦。ルディの実家であるシュタイナー服店をマックスが訪ねてくる。マックスとの友情はリーゼルが死ぬまで続いた。彼女は90歳の長寿をまっとうした。彼女の部屋には夫、子供、孫の写真のほか、ハンス、ローザ、マックス、永遠に少年のままのルディがいた。ラスト、死神のモノローグはこうだった。「わたしはこの本泥棒に伝えたかった。人生とはなにか、君に考えさせられたと。だがその答えは言葉にはならず沈黙が残った。ひとつ確かなことは、わたしは人間というものにとりつかれていることだ」

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