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特集「ベストコレクション」

2015年9月8日

特集「秋の夜長のベストコレクション」⑧ムーンライズ・キングダム(2013年 ファンタジー映画)

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監督 ウェス・アンダーソン
出演 ブルース・ウィリス/エドワード・ノートン/ティルダ・スウィントン

人生はやさしくあっていい

ゆるキャラの哲人ウェス・アンダーソン監督です。このひとの映画、静謐な室内楽を聴いているようで気持ちがいい。もちろんけっこうな毒は効かしていますよ。本作でいうならブルース・ウィリスやエドワード・ノートンが受け持つ役はノスタルジックな、いいおじさんの部分なのだけど、フランシス・マクドーマンドやティルダ・スウィントンになると、ビシャビシャと現実家であり、秘密をかかえるオトナの裏面を体現する。一言でいうならこの映画は12歳の子供の初恋だ。だれでもそんな年頃に一度や二度家出に憧れたり、大冒険のように試みたりするだろう。親の許可をもらってさえ、外泊は興奮するものだったのだ▼アンダーソンがこしらえた主人公の少年少女は、サムとスージーはこんなふうだ。サムはボーイスカウトの隊員。ウォード隊長(エドワード・ノートン)は朝の点呼でサムが置き手紙を残して退団したことを知る。サムは孤児だ。養親はサムに手を焼いていた。ボーイスカウトのほかのメンバーは、サムを変わり者だといって嫌っている。サムは自分から溶け込もうとせずいつもひとりぼっちだった。1年前ボーイスカウトの学芸会で、サムは劇のカラス役で出演していたスージーに一目惚れした。男子禁制の楽屋に行って自己紹介する。スージーのパパ、ウォルトにビル・マーレイ。ママのローラにマクドーマンドだ。父は堅物で融通が効かず、母は口やかましくいつもせわしない。スージーには幼い弟が3人いるが話し相手にはなれない。いつしかスージーはいつも双眼鏡を持って、二階の窓から外を眺めるようになった。言い忘れたが、物語の舞台はアメリカのニューイングランド沖に浮かぶニューベンザンス島。名前は架空の島であるが島であることはホントだ。小さな島の回りは入り組んだ海岸で、二階からは水平線まで一望である。水平線どころか島全体がグルっと見渡せるくらいだ。その日もスージーは望遠鏡であちこちみていた。ママとシャープ警部(ブルース・ウィリス)がバス停の前にいるのを見た▼シャープ警部は島でたったひとりの警官で、彼のパトカーは島でたった一台の車だ。ふたりの話し声はむろん聞こえなかったが、1本のタバコを交互にのみあっていた。スージーは彼らの不倫がピンとくる。スージーにも友達はいなかった。ふたりはどっちもさびしかった。スージーとサムは1年間文通し家出することに決めた。落ち合う場所は草原だ。サムはテントその他サバイバルに必要な一式を背に、スージーは大好きなレコードを聞くプレーヤーと身の回りの品と編みカゴにいれたネコを連れて。手付かずの美しい自然に囲まれた入江を「ムーンライズ・キングダム」と名づけたふたりはテントを張り、魚を釣って海に飛び込み、サムは絵を描き、夢を語り、ダンスも踊り、初めてキスする。うまくいかないので「顔を傾けて」とかスージーが言い、フレンチ・キスをやってみようとか、舌を入れるのよとか、スージーが「固くなっている」。サムが「いやかい?」「いいえ」。そのあとどこまでいったのか、そういう野暮なことを、映画は不問に付す(笑)▼ふたりがいなくなったことに気づいた大人たちは右往左往。話を縮めると今までサムをのけものにしていたぼくたちにも責任はあると反省したボーイスカウトの少年たちが協力し、ふたりがだきあって眠っているテントを発見した。事態を収拾するため福祉局の担当者、劇中「福祉さん」とばれるティルダがヘリで到着した。ふたりはむろん離れ離れに引き離される。養親はもうサムを引き取らないというから、彼が行く先は収容所しかない。スージーは「ママはあの哀れでバカな警官とできている」と母親にふてくされる。でもママは動じず「かわいそうに。なぜ何事も難しくするの?」と娘の髪をやさしくなでる。ちょっとしたこんなシーンが本作をピリッとひきしめています。ティルダは一見、血も涙もない官吏みたいに登場しますが、よくあることとはいえ、なぜこの人は普段の風貌より段違いにブサイクな格好で現れるのでしょう。スージーとサムは結婚すると決めました。12歳では結婚できない。でも約束はできると、ボーイスカウトの先輩が団員たちを立会人にして結婚式(らしきもの)を挙げる。トレラーで育った孤独な少年時代をおくった警部はサムを養子にする。母親と心を通わせたスージーは学校一の問題児から卒業しそうだ。ウェスはわざわざスージーにキャパクラ嬢みたいな濃いメークをさせ、サムはひねたオッサン的風貌とスタイルに、それがズバリ、おめでたくきれいなハーレクインから一線を画している。辛いことも多いけれど、人生はやさしくあっていい。アンダーソンの映画をみているとそんな気がしてくる。

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