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特集「ベストコレクション」

2015年9月12日

特集「秋の夜長のベストコレクション」ブラックブック(2007年 アクション映画)

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監督 ポール・バーホーヘン
出演 カリス・ファン・ハウテン/セバスチャン・コッホ

すべからく甘くないぞ

ポール・バーホーヘン監督が23年ぶりに故国オランダで撮った映画です。バーホーヘン監督は大好きな監督でして「ロボコップ」も「トータル・リコール」も「ショーガール」も、「インビジブル」も、もちろん「氷の微笑」も見たわ。シャロン・ストーンとか、エリザベス・バークレーとか、大型の女優は彼の映画に出ると精彩を放つのよ。それなのにラズベリーだとか、作風が大味だとか、内容が荒唐無稽だとか、けなす人がいるのね。可哀想に「ショーガール」のエリザベスなんか、クソミソに批評されたショックで、引きこもりになってしまったじゃない。酷評など大物が受けるべき勲章であると、弾き返したシャロン姉御を見習うべきだったわ▼本作のヒロイン、ラヘルを演じたカリス・ファン・ハウテンはオランダのクール・ビューティ。相方のムンツエ大尉のセバスチャン・コッホは「善き人のためのソナタ」で準主役。ハリウッドに比べたら地味系ですが、見応えは劣りません。地味系といえば本作そのものがバーホーヘンにしたら地味なのです。テーマがテーマだからバカ派手な映画にはなりようがなかったでしょうが、アメリカ時代の反省からVFX(ビジュアル・エフェクツ=特撮を用いた視覚効果)をいっさい使いませんでした。そのぶん敵味方の入り組んだ関係が重層的に織り成されて、ひとつも退屈しませんでした。裏切りは当たり前、殺されることもあって当然、信用するのは愚か、という裏街道の掟に、監督はすっぽり観客をはめこんでしまいます。ラヘル(スパイ名エリス)は、スーパーヒロインではない。裏切り者のために家族を皆殺しにされ、九死に一生を得て、ナチへの報復を誓い、レジスタンスに加わった、与えられた任務はナチ将校にとりいって情報を聞き出すこと、つまりムンツエ大尉と寝るのである。女は男と寝る以外に使い道がない、という旧態依然のやりくちに辟易しますが、レジスタンス一同は大真面目である。バーホーヘンはどことなく、彼らがあまりアタマよくなさそう、と想定しているのではないか、とこのあたりで思ったのですが、当たらずといえども遠からずで、レジスタンスの隊長は最前線にいる息子のことばかり心配し、彼が殺されたら半狂乱になって同志に当たり散らす。副ボスは医者らしいがドンくさい男で、口以外は軽々と動かない▼おまけに内部の情報が筒抜けなのに内部犯は放置したまま、ラヘルに盗聴器を仕掛けろと指示する。優先順位が間違っているのではないか。やることが素人集団であると監督は言っているのと同じです。ナチ側の班長はじわじわ冷酷にスパイ、つまりラヘルの正体を暴きにかかるが、彼のエネルギーの源泉が、大尉が気に食わないから、彼の女であるラヘルをひどい目にあわせてやる、というモロ感情レベルの意趣返しというのが、なんとも単純ではないでしょうか。裏切り者の密告者は政治的思想からでもなく、愛国心からでもなく、ユダヤ人の金と宝石を略奪するために、ラヘルたち一家を国外に亡命させるとだまし、途中待ち受けて一斉掃射し、死体からネックレスや指輪を外す、カバンから財布や紙幣を抜きとるという、一言でいえば野盗だったとは、バーホーヘンの「人間なんか、高尚な形而上学的根拠で動くものではない」という身も蓋もない人間観がよく出ています▼「ブラックブック」とは、ユダヤ人の国外逃亡を助けるはずの弁護士が、じつは狙うべき裕福なユダヤ人をリストアップし、敵方のナチの野盗組に売っていた、その名前を書いた黒い手帳のことです。敵も味方も入り乱れて騙し合い、一握りの人間が生き延びた。この映画がいちばんていねいに描いているのは、戦争のそらおそろしい無秩序でしょう。バーホーベンらしいクソ力がよく現れているのは、拘束されたレジスタンスたちがナチの監視下で拷問にあうシーン。ラヘルは見世物にされ服をはぎとられ、ムチで打たれ、床にはいつくばったところへ、アタマの真上から糞尿桶をぶっかけられる。ひえ~。迫力なんてものじゃないですね。ヒロインはイスラエルに亡命し外国語の教師となり、結婚して子供がふたりいます。平和なはずですが、アメリカでもよかったのに、わざわざパレスチナとイスラエルという、緊張の地域にヒロインを亡命させたのは、おいそれと平和が得られると望むほうが甘いという監督のメッセージでしょう。

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