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特集「ベストコレクション」

2015年9月14日

特集「秋の夜長のベストコレクション」ジュピター(2015年 SF映画)

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監督 ラナ・ウォシャウスキー/アンディ・ウォシャウスキー
出演 ミラ・クニス/チャニング・テイタム/エディ・レッドメイン

「夢の女」を作ってよ

全宇宙を支配する一族、名門アブラサクス家には3人の後継者がいる。長男バレム(エディ・レッドメイン)、次男タイタス(ダグラス・ブース)、長女カリークだ。彼らはそれぞれ支配する星を持っている。地球の支配者はバレムだが、なぜか全員が地球を狙っている。なぜ地球はそんなにおいしいのか。バレムにいわせると地球は人口過剰で爆発しそう、「そろそろ収穫の時期」だという。宇宙における最高の価値は時間である、というのが彼らの考え方で、時間を支配するものが永遠の存在となる…ウォシャウスキー独特の、持って回ったややこしい説明があるが、剥いた話をすると人類は彼らの「家畜」である、若さと健康を保つ「命の水」を抽出するには小さな瓶一本につき100人くらいの人間の命が必要。そこで地球上に人間を繁殖させ太らせ、いよいよ「刈り取り」にかかろうというのだ。いろんな惑星より地球の資産価値がいちばん高い。だから兄妹たちは長兄にひとり占めさせてたまるかと地球を狙っている。宇宙最大の名門アブラサクス家は目下お家騒動の真っ最中なのだ▼問題が生じた。彼らの母親とまったく同じ遺伝子配列をもった女性が地球に生まれたことがわかった。輪廻転生とはこれをいうらしい。カリークは「1万4000歳。母上は9万1000歳でなくなった」。「命水」は他の星のエイリアンも作ってはいるが、アブラサクス製が純度も価値もいちばんいい、つまりトップブランドなわけね。壮大な宇宙の世界観から一転、現実的なお話になってきたわ。母親と同じ遺伝子配列を持っているのがジュピター(ミラ・クニス)で、彼女が生きているということは地球の所有者は彼女だということになるのだ。言い忘れたが地球はもともと彼女らの母親の所有で、それを長兄が譲り受けたのである。だからバレムはジュピターを殺しに地球へ刺客を送った▼殺されそうになったジュピターを救ったのが狼の遺伝子を継ぐ戦士ケイン(チャニング・テイタム)だ。彼は王家の守護が任務であるが、トラブルに巻き込まれ罰として背中の翼を奪われた。だから彼は宙を飛ぶため、動力ベクトルを反転させ、空中をサーフィンできる特殊ブーツをはいている。チャニング・テイタムの耳がとんがっているのは狼の血がまじっているからである。大真面目なマンガがウォシャウスキーの本領であるし、手の込んだ映像は第一級だが、はっきりいってこの映画は面白くないのだ。エイリアンとか宇宙とかいう、最高の謎と興奮にみちた世界を舞台にしながら、エステの効能とか健康長寿とか、ビジネス効果効能とか、現実社会の置換にすぎないストーリーで終始一貫する。それもいいとしよう。高邁にしてミステリアスな「インターステラー」系だけがSFの魅力ではないだろう。エンタメスピリッツにあふれる「大真面目なおバカ」もサイコーだ。それに狼戦士とか、末っ子のタイタスがジュピターに結婚を申し込むとか、ミラ・クニスのドレス着せ替えの早変わりとか、それなりにウォシャウスキー姉弟が旺盛なサービスを発揮している努力も認めよう。そうだ、そうだ、エディ・レッドメインがイギリスの頭脳、スティーブン・ホーキンス博士でアカデミー主演男優賞を取る前に、欲の皮の突っ張ったイカレポンチを、汗だくで演じていたなど、大笑いではないか▼にもかかわらず面白くないのは、ヒロインのキャラが「フツー」に終わってしまったからだ。脚本の、つまりウォシャウスキーのどうしようもない失敗としかいいようがない。王家の後継者たる支配権をもちながら、この王女さまはひとつも自分のやりかたを知らない。そんなマヌケなヒロインに設定してドラマのどこがおもしろくなる。頭は弱いけれど筋肉はすごいとか、カンフーの達人であるとか、天才的な数学の頭脳により一瞬でブラックホールを解析するとか、どこか突き抜けたものがないとこの手の映画のヒロインは、映画を最後まで引っ張っていくのに無理がある。キャラが弱いから、退屈なまでに長い空中戦で時間消化したり、迷いながらみせかけの結婚を不承不承受け入れたり。ヒロインの地球上の職業が家政婦で、せっせとトイレを掃除しているのは、毎度のことだ。能ある鷹が自分の能力に気づいていない主人公とは、ウォシャウスキーの好きな「世を忍ぶ仮の姿」である。「マトリックス」のキアヌ・リーブスにせよ、「バウンド」のヴァイオレットとコーキーにせよ、でも彼奴らは必ず背中にたたんだ翼を広げ羽ばたいたのである。このお姫様はいつも部下に助けられ、結局はラブロマンスに終わるという、幸福かもしれないが、だれも映画でみたいと思わないヒロインになった。ラナ・ウォシャウスキーはせっかくトランスしたのだ。自分がなりたかった夢の女を、もっと力強く造型してほしい。

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