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特集「美魔女」

2015年9月29日

特集「美魔女」 キム・ベイシンガー1ナイン・ハーフ(1986年 恋愛映画)

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監督 エイドリアン・ライン
出演 ミッキー・ローク/キム・ベイシンガー

出口のない愛

変態男と別れるのに9週間半(ナイン・ハーフ)もかかったというのがつまり、この映画の見せ所なのね。エリザベスはニューヨークの画廊に勤めるキャリア・ウーマン、離婚して4ヶ月。同僚のモリーとは気が合うし、仕事は好きだし、ジョン(ミッキー・ローク)と出会うまではつつがない人生だった。チャイナタウンで身なりのいいハンサムな男が声をかけた、それがジョンだ。恋の予感にエリザベスはときめきを覚えた。翌日ノミの市で高級スカーフをあきらめた彼女に、ジョンがプレゼントし、そのままレストランで食事、友人の家だという川べりのしゃれた家にジョンが案内した。ウダウダ中に入る女も女だが、ジョンがさっそくベッドメークするのをみて、さすがにその場を去る。ジョンとは姜尚中・東大名誉教授みたいに低い声でボソボソしゃべるわりに、やることが強引なのだ▼彼は自分のことはいっさい語らず、センスのいいレストランに女をつれていき、うきうきさせ、自分のグラスのワインを飲ませ、料理を口に運んでやる。口とか唇とか、感じやすい箇所を間接的にせよ触られるのだから、普通なら手ではらいのけるところを、おとなしくしているのは、女はハマってしまったのも同然である。ミッキー・ロークが整形でむちゃくちゃになる前の、端正、ともいうべき美男のままでスクリーンに生きているのを見て涙する。運命とはかくも残酷か…それはまた次回にするとして、本作を有名にしたのが氷の愛撫だ。「服を脱げよ」と命令調になり、目隠しをして氷のかけらで愛撫していくシーン。口に入れた氷を出し女の首、乳房、パンティのふちを湿らす。ジョンとはそれでなくともいかがわしい男である。「お仕事は」の質問に「金の売り買いさ。鞘稼ぎだよ」ということはウォール街の男なのだ。プレゼントに高価な時計を贈り「頼みがある。毎日12時にそれを見て、ぼくとのセックスを思い出してくれ」。さらに「目を開けるなよ」と命じてブドウを食べさせる。つぎはチェリーの砂糖漬けだ。キムの唇がアップになり、ブドウの房が口の中に入る。チェリーのつぎはイチゴ。せき止めシロップをスプーンで舐めさせ、シャンパンを飲ませる。ゼリー、牛乳、ソーダを顔にかけ、目を閉じたまま舌を出せといい、ハチミツを垂らす。身体の上に塗りたくる。ベトベトになったてのひらで髪をさわる。もちろん髪はギトギトだ。室内だけではない。大きな時計台に上がって巨大なゼンマイの影で、雨が土砂降りの路地裏でのセックス▼男は言う。「皿洗いはぼくがする。買い物。料理して君に食べさせ、風呂にいれて君を世話する。ベッドに食事を運び食べさせてあげよう」けっこうなことだけれど、病人じゃあるまいし。そりゃね、たまにはお姫さま、お嬢さま。女王さまもいいけど、さすがに女は擬態の暮らしに疲れてくる。そんなとき都心を離れて制作する画家のアトリエを尋ねる。個展が近いというのに作品があがってこないので、エリザベスが催促に行ったのだ。黙々と制作する画家の孤独な、ピュアに生活を目にして、エリザベスは今の自分を覆っている膜のようなものに気づく。このままでは繭にとりこまれてしまいそうな気がしてくる。ジョンのサディスティックな要求はますますエスカレートしてイヌのように「床を這え」とか、乗馬用の鞭を買ったり、娼婦を部屋に呼んだりする▼かくも刺激的であるにもかかわらず、だんだんこの映画に退屈してくるのは、出口がないからだ。結局こんなことをしていてなんになるという虚しさがおしよせる。ジョンには妻子がいるし、しょせん彼のいっときの相手にすぎない。離婚した夫はモリーと付き合い始め、楽しそうである。自分だけ変態男のもとに取り残されている。もう去り時だと女は思う。男もそれに気づく。「女はたくさんいたがこんな感情は初めてだ。愛してしまうなんて」とジョン。「ここまで、というべきだったのに、あなたに引きずられた」とエリザベス。彼女は部屋を出て行く。「戻ってくれ。50数える」とジョン。「1…」。部屋を出ると、ニューヨークは夜になっていた。むなしさに泣くラストのキムがいいですね。後年の「L.A.コンフィデンシャル」の名演を予感させます。エイドリアン・ライン監督は蛇足ですが、「フォクシー・レディ」でジョディ・フォスターを、「フラッシュ・ダンス」でジェニファー・ビールスを、「危険な情事」でグレン・クローズを一挙に注目させた監督です。「幸福の条件」でもデミ・ムーアが可愛い感じで頑張っています。女を素直にさせるのがうまい監督じゃないでしょうか。彼を(あ、すごいな)と思ったシーンがあります。キムが男の仕事が知りたくてウォール街のオフィスに訪ねていきます。そのとき「はい、お弁当よ」といってサンドイッチかなにかを差し出す。女は不確かな迷路のような刺激だけの行為に疲れ、ありふれた、でも安心できる建物のような愛に拠り所が欲しくなっていた、日常性のさいたるものである弁当とか、明るい昼の仕事の時間がもたらす普段着の愛がね。繊細なワン・シーンでした。

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