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特集「ディーバ(大女優)」

2015年10月2日

特集「ディーバ14」ティルダ・スウィントン
フィクサー(2007年 社会派映画)

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監督 トニー・ギルロイ

出演 ジョージ・クルーニー/ティルダ・スウィントン

ティルダの「読み」

ティルダ・スウィントンの演じる弁護士カレンをみていると胸が痛くなる。彼女は世界62カ国で事業を展開する巨大企業U・ノース社の法務部長に昇進した。だれもが羨むエグゼクティブ・ポジションだ。その会社が3000億円の訴訟をかかえた。製造する農薬が有害であるとして訴えられたのだ。U・ノースは600人の弁護士を擁する、ニューヨーク最大の弁護士事務所、ケナーバック&レディーン事務所に弁護を依頼する。そのうちのひとり、トラブルのもみ消しを専門にする弁護士マイケルがジョージ・クルーニーだ。係争は6年間続いており、U・ノースが和解に応じると回答したところから映画は始まる。彼の同僚アーサーは、調査の途中でU・ノースの農薬が人体を死に至らす有害物質である証拠を握った。彼は「6年間この裁判にかかわり、騙しと遅延戦術で死の農薬を弁護した」という呵責にかられ、それを公表しようとして抹殺される▼主人公マイケルは、優秀な弁護士であるにもかかわらず能力が生かし切れず、人生を狂わせた男だ。離婚した妻と親権を争い、10歳の息子ヘンリーと会う時間もままならず、病気療養中の父親と面会する時間もない。従兄弟と始めたベンチャービジネスも失敗し、8万ドルの借金に追われている。器用貧乏みたいな、こういう人っているよね、と思った瞬間から、監督の罠にかかったとは思うが(笑)。つまりマイケルは、アタマのよさや野心を本来の仕事に集中させず、高給取りの弁護士なのにアルコールやギャンブル依存症にはまり、キャリアを頓挫させている。ヒーローになれない、表にも立てないヘタレ弁護士に対しカレンは違う。カレンにマイケルのような柔軟というかいい加減というか、そんな性向があれば、まだ救われたのにと思うが、それはあとの話にしよう。彼女はマスコミの取材に対応する前に、鏡に向かい何度もスピーチの練習をするようなテンションの高い女性である。ティルダはそのスピーチを、素人丸出しの「下手ぶり」で演じる。カレンは今まで会社を代表してインタビューされるようなステージに立ったことがない。初めてだから緊張し、超ガリバー企業のエクゼクティブにふさわしいコメントをせねばと、ひしひしプレッシャーを感じている。彼女は会社に忠実な兵士だ。真面目で誠実で、弁護士として会社を守る任務を全うしようと全力をあげる。オール・オア・ナッシングの「勝つか、負けるか」の対立で決着をつけようとする。こういう勝ち方もありうる、と考える一種の「狡さ」をまだ身につけていない▼ティルダのカレンに対する読み込みは深い。彼女は女性エクゼクティブ数人にインタビューし、カレンを「役を選びそこねた不器用な女優」としてとらえた。カレンは会社が有害な農薬を作っている証拠を知ったにもかかわらず、「忠実な兵士」としての役を選んでしまうのだ。ティルダは自分の役をこう分析した。「カレンは失敗を恐れている。助けを求めず、自分で仕切れることを証明したい。女というだけで弱いと思われることをもっとも恐れている」。ティルダがクライアントへの説明会に臨む前、自分の家で何度も服を着替え、下着を選び、高級な(でもどうみてもティルダに似合っているとは思えない)勝負服で身を鎧い、堂々と歩いてみせる。いざ「出陣」のシーンを、ティルダは誇張せず演じている。弁護士の正義と企業へのロイヤリティの狭間でカレンは葛藤する。ハイパワーを持つ女性がそれゆえ野心に支配された弱さを演じた。ティルダの共感と役の読み込みが、男なら感じる必要がなかった、カレンのプレッシャーと孤独を、愚かなまでに表出した▼ティルダは本作でアカデミー助演女優賞を受賞した。授賞式で金色のオスカーをかかげた画像がある。嬉しそうだった。初ノミネート・初受賞ということもあった。ティルダはそのあと変わったか? まあね「ミラノ、愛に生きる」で制作に「少年は残酷な弓を射る」で制作・総指揮にかかわり、ちょっと欲のあるところを示したものの「スノーピアサー」と「グランド・ブタペスト・ホテル」では、相変わらずのクイア・フレンドリーを発揮している。祖父譲りの競馬好きで大穴をあて、1年間仕事せず暮らしたとどこかで答えていた。ティルダと気の合う女性監督が何人かいる。「オルランド」のサリー・ポッターや「少年は…」のリム・ラムジーはそんな監督にちがいない。理由? 「オルランド」のセックス・チェンジと「少年は…」の、ぼろぼろの衣服と汚いメイクは、ティルダの「お姫さまコンプレックス」にとって大好きなキャラでした。そういえば本作のカレンも、黒いサラサラしたオカッパの髪と、どうにもこうにもお似合いではない衣装選びで、自らの美貌とセンスを封印するマゾ趣味でもあるような、ティルダのクイアぶりがよく表れています。

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