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特集「ディーバ(大女優)」

2015年10月4日

特集「ディーバ14」ティルダ・スウィントン
リミッツ・オブ・コントロール(2009年 社会派映画)

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監督 ジム・ジャームッシュ

出演 ティルダ・スウィントン/イザック・ド・バンコレ/パス・デ・ラ・ウェルタ

ティルダのコンプレックス 

ジム・ジャームッシュの映画は怨嗟と怨念にみちています。「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ」では吸血鬼夫婦を主人公に、男ヴァンパイアがさんざん現代社会とハイテク文明にケチをつけ、ひきこもりになったのを、女ヴァンパイアが、いいかげんになさいよ、となだめるのよね。ここ面白かったわ。3000歳の女ヴァンパイアに扮したのがティルダ・スウィントンでした。本作のティルダの登場はわずか1シーンという、ぜいたくな扱いです。クルーはいつものジャームッシュ組。ティルダのほか、ジョン・ハート、ビル・マーレイら。ハリウッドへの痛烈な嫌味でしょうが「自分こそ偉大だと思う男を墓場に送れ」が殺しの暗号とは(笑)▼ランボーが冒頭に引用され、警句・惹句とオマージュの連続です。殺し屋の男の名前というか、コードネームが「孤独な男」。ゴルゴ13も顔負けよ(笑)。やたら(笑)が入るのがジャームッシュ映画なのね。さて粗筋は、殺し屋が仕事を請け負う。依頼人の合言葉は「スペイン語は話せるか」。殺し屋への指示はマッチ箱に入った小さな紙片。やることがアナログです。彼はそれを読みコーヒーで飲み下す。コーヒーはエスプレッソのセパレート。テーブルに行儀よくカップをふたつ並べる。紙片に書かれた場所にいくと次の指示が入る。彼はスペインのあちこちを移動し、最終的に暗殺する男の厳重なアジトに影のように潜入するが「どうやって入った」と男にきかれると「想像力だ」とくるから参るわな。殺し屋のイザック・ド・バンコレは巨大な鼻孔を持つ黒人男性である。リュウとスーツを着こなし、一日何回か太極拳をするがじつに下手くそで、全然サマになっていないのだけど、やる。彼にとっては宗教みたいになっているのよ。到着したマドリッドで、殺し屋が部屋に帰るとヌードの女がベッドに待っている。本作では固有名詞ではなくみなコード名です。「ヌード」が誰あろう、パス・デ・ラ・ウェルタ。本作のあと「マッド・ナース」で彼女が演じた狂乱怒涛の女を知っていると、この「ヌード」は(ちょっとアタマおかしい)くらいですむ、比較的マトモな女です。殺し屋は「仕事中はセックスしない」とじつにストイック▼ティルダ・スウィントンは…これがなあ、吹き出しそうないでたちで現れるのだ。コード名「ブロンド」。プラチナ・ブロンドですよ。真っ白ピカピカのストレートヘアに白いスーツ、白いハット、白い手袋に白いアンブレラ、ブーツとサングラスが茶色でカツカツと近づき、殺し屋のテーブルにエスプレッソのセパレートを認め、腰をおろす。合図の「スペイン語は話す?」を言う。真っ赤なルージュに重たげなまつげ。「映画に興味ある?」と聞く。最初の男は「音楽に興味ある?」だった。ジャームッシュは「音楽」や「映画」に興味ないと「仲間にいれてやらない」といわんばかりです(笑)。本作は、彼の美意識にふさわしいステップをふんで、精神的にも物質的にモロ俗物を殺しにいく映画である、そう受け止めて、当たらずといえども遠からず、でしょう。だから監督の思想の使徒たる主人公は、セックスボケしたり、ケータイが手放せなかったり、瞑想もしないような、ありふれたごろつきではなく、太極拳で「気」を整える「孤独な男」でなければいかんのですな▼「ブロンド」はすわるなり「上海から来た女」をみたかと尋ねる。殺し屋は無言。女は答えを聞きたいふうでもなく「金髪のリタはこの1本だけ。彼女は死ぬのよ。ダイヤモンドは女の親友ね」おわかりと思いますが、「上海」はリタ・ヘイワースとオーソン・ウェルズの、当時夫婦だったふたりが共演した作品。オーソンはこれまでスクリーンで見せたことのないリタを撮ろうと、長い赤毛をばっさりショートにし、ブロンドに染めた。映画は大失敗でした。「ダイヤモンドは女の親友」は「紳士は金髪がお好き」でマリリン・モンローが歌ったヒット曲。脈絡のなく勝手なことを並べたてた「ブロンド」は、雨も降っていないのに傘をさして去っていく▼思うのですけど、いくつになってもティルダには「お嬢さんコンプレックス」があるのね。牧師の息子として育ったアルベルト・シュバイツアーが、自分の家の裕福さを恥じて、わざと小汚い服を着て学校に行ったというエピソードがあったけど、それと同じよ。スコットランド王家の血をひくティルダ姫としては、ケンブリッジ大学で共産党に入ったり、薄汚れた貧しい女や、息子に裏切られる女や、ヴァンパイアを演じたり「スノーピアサー」では入れ歯フガフガの女総督、「グランド・ブタペスト・ホテル」では84歳で、レイフ・ファインズを夜のお相手にご指名する女性という悪ノリ、まだまだやってくれるでしょうね。彼女の美貌とセンスが存分に発揮されるのは、映画よりむしろ、超ブランドのCFと、来日プロモーションキャンペーンと、映画祭のレッド・カーペットではないか(笑)。

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