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特集「ディーバ(大女優)」

2015年10月6日

特集「ディーバ14」ティルダ・スウィントン
サムサッカー(2006年 家族映画)

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監督 マイク・ミルズ

出演 ティルダ・スウィントン/キアヌ・リーブス/ベンジャミン・ブラット/ルー・テイラー・プッチ

守護獣の贈り物 

17歳の主人公・ジャスティン(ルー・テイラー・プッチ)の成長物語ということもできるのですが、マイク・ミルズ監督の大人のやさしさが、退屈で陰気臭くなりかけたこの映画を、窒息から救っています。思春期独特の「傲慢病」ともいうべき独善的なジャスティンが、生きていくのに必要な社会性や、大人の見方を身につけるにつれ、それまでの家族像、たとえば父親は出世コースからドロップアウトしたうだつのあがらない中年男、弟は意地の悪い反抗的なガキ、母親オードリー(ティルダ・スウィントン)は人気タレントにウツツを抜かす看護師にして平凡な主婦、といった家族の群像がガラッといれかわる。父親は出来の悪い息子に耐え、家長を張る硬漢男子、自分だけ苦しいフリをしている兄を父も母も心配し、はれものにさわるように扱っているのを見てきた弟は(おかげでぼくはしっかりしていなきゃいけない)と思い、いじけもせずマイペースで生きてきた、ホントいいやつである▼サムサッカーは「親指しゃぶり」ですね。17歳にもなって親指をしゃぶる癖があるジャスティンに父親はイライラする。歯科医ライアン(キアヌ・リーブス)は「親指の代用だよ。歯列矯正で問題は解決しない。催眠術を試みよう」と言い、「目を閉じて君の守護獣を想像してくれ。イヌでもネコでもいい」。ジャスティンはシカを思い描く。「孤独や不安を感じた時はいつでも守護獣を呼び出すのだ」…なんてとぼけたテクを教え、診療よりマラソン出場に熱心な先生である。人並みにガールフレンドがほしくなったジャスティンはレベッカに近づくが、いちばん大事な問題から目をそらし、体をかわしてばかりいるジャスティンをレベッカは本気で相手にしない。しかしマア、本命が現れた時の実験台に、と扱われたジャスティンは傷つくが(あれじゃ仕方ないなア)とも監督は思わせる。両親は思い余って精神科医に相談。投薬治療を勧められ「恥ずかしい癖が治るならとジャスティンは受け入れる。効果は覿面。頭は冴え「白鯨」を一日で読了し、モゴモゴ口を動かすだけだったディベートでは論旨明快、対戦相手を打ち負かし地区優勝に快進撃。ところが大喜びでディベート会場に応援に来ていた母親は、息子の勇姿を見に行きたがらなくなった。ジャスティンは口が達者になっただけだった。勝ち方を学んで言い負かすことだけに長け、嫌味と皮肉で言い返し、とうとう担当教師は「君は舌先三寸、傲慢で自制不足で残念だ。ディベート部を退部? あっソ。ごくろうさま」と未練もない▼母親が大ファンであるスター、マット・シュラム(ベンジャミン・ブラット)が、母が勤める病院に入院した。ジャスティンは母のバッグに「ぼくの天使、オードリーへ」とサイン入りのマットの本があるのを発見、不倫だと確信する。ある夜病院の庭でマットに会った。患者だと思ったマットは世間話などするが、オフィスにオードリーがいるのを見て「彼女はぼくの命の恩人だ」と教える。ドラッグ依存症で入院したマットは薬を肛門に隠し、押しこみすぎて取り出せなくなった、スプーンを挿入したが取り出せず悶え苦しんでいたら、オードリーは遅疑なく、麻酔も使わず腕を突っ込んで取り出したというのだ。「ぼくは現実にめざめた。彼女は言った」というのがつぎのティルダのセリフだ。ここがいい「だれでもなにかに依存して生きている。自己愛とか理想の生活とか。成功とか、失敗とか。いろんな考え、妄想とか。少年の母って強烈な体験よ。ない答を期待されて。家庭をもてば寂しくない、なんて妄想かもね」。キアヌ先生も最後は決めてくれる。「親指しゃぶりなんか、なにも問題ない。どこも悪くない。なぜ治す。人にできるのは考え、努力して望むだけだ」。この映画は「大切なのは答なしに生きることだ」という結論で締めくくります。自問自答を繰り返しながら、精神の井戸は深く掘り下げられ、豊かな透き通った水をたたえる。ニューヨーク大学に合格したジャスティンを、一家揃って空港で見送るシーンも、ベタすぎるといえばいえますが、こんな「依存」はきっと守護獣の贈り物ではないでしょうか。

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