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特集「ディーバ(大女優)」

2015年10月7日

特集「ディーバ14」ティルダ・スウィントン
素肌の涙(2000年 社会派映画)

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監督 ティム・ロス

出演 ティルダ・スウィントン/レイ・ウィンストン

家庭の中の暗闘 

イングランド南西部のデボン。荒涼とした海沿いの町へ引っ越してきた一家。父(レイ・ウィンストン)と母(ティルダ・スウィントン)に姉ジェシー18歳と弟のトム。ティルダが大きな臨月のお腹をかかえて登場する。帰宅したトムの汗を拭いてやり、夫の世話をやき、娘を誘いにきたボーイフレンドに何時には返してくれ、送ってきてくれとこまごま注意を与える。いい母親だ。ある夜産気づいて病院に車を走らせた。一家全員4人いっしょだ。横から車がとびだし、一家の車は横転、さかさまになって煙を吐いている車から赤ん坊の声が聞こえた。病院の待合室。あちこちに絆創膏を貼った、みんな傷だらけの顔で父・ジャシー・トムが赤ん坊との対面を待っている。許されて入室。顔中切り傷、包帯だらけのティルダが、フギャー、フギャー元気に泣く女児を抱えてあやしている。家族揃って安心する▼ティム・ロスの監督初作品。力作です。父親と娘の近親相姦を知った弟の目を通して、平和だった一家の崩壊を描く。日常の中の闇、平和のうちの争い、愛の中の憎しみとエゴ、人目を盗んで娘とセックスする、どうしようもない親父なのに、娘は男として愛している。弟は「クズだよ、ふたりとも。やめてくれよ、やめないとママにいいつけるぞ」と懸命に姉に懇願するが、姉は「思い違いよ」とシラをきる。しかし現場を目撃されそれもできなくなった。ジェシーは行き詰まる。父娘の逢引は海を臨んだ高台の、砲台のようなシェルターだった。天井と壁と床だけの四角い空間で、父親の巨大な体に埋もれてしまうような少女が「そんなのイヤ、ママと同じようにして」と頼む。「それだけはだめだ」と父親はあくまでバックで犯すのである。他人の娘なら、この親父は即刑務所行きだ。自分の娘に、それも絶対に妊娠しないよう、後ろから責め続けるおぞましさ。ジェシーは「あんな親父、サイテーだよ」と怒りと突きつける、弟の関心をそらそうと、ロンドンに連れて出て自分の女友達を紹介するが、トムはその気になれない。父親との関係がわかるまで姉と弟は、はためにも仲のいい姉弟だった。思いあぐねたトムは母親に言う。「姉貴の様子がヘンだよ」ママは「赤ん坊のせい?」と無邪気に聞く。赤ん坊ができてヤキモチやくような年齢でもあるまいが▼ミステリアスで陰湿で、心に秘密を持っている家族のなかで、母親だけがすこぶる健康である。出産からしばらく、久しぶりのセックスをすませ、「コルセットで体を戻さないと」と、垂れた胸をブラジャーに押し込みながら言う。おなかもみごとな三段腹で、昔ながらのいわゆるズロースを履きながら「赤ちゃんが起きるわ。出て行って」と夫を追い出す。大きな垂れたオッパイで堂々と授乳する(CGはあったのでしょうか。貧乳のティルダとは思えませんが)。家族のなかで母親だけが、謎がない。家族の世話をやき、息子、娘を愛し、夫を愛し、子供を産み、引っ越してきたばかりの知り合いのいない町で仕事を見つけ「働かなくちゃ」としっかり家計を支える算段をする。健康でどこにも謎と迷いのない女を、ティルダは安物のズロースやブラジャーや、ひさしぶりに満足したセックスなどで、役作りしている▼「アリス(妹)を、パパに近づけさせないで」と言ったトムの言葉で、母親はことの重大さに気づく。赤ん坊が熱をだして入院し、母親が付き添って病院に行った、ここからティルダは画面には登場しないのですが、露見した衝撃波が各人を襲います。父親はあくまで事実を否定、ジェシーは物悲しく沈黙、トムは父親を許せない。シェルターでトムは父親を刺殺する。映画はそこで終わります。幸福だった、少なくとも表面は幸福だった家族は一家離散である。獣的で変態でエゴイストにして、やさしく頼りになる父であり、よき夫を演じるレイ・ウィストンがしまいに気色悪くなった。すごい役者です。犯罪者ではありますが、息子の肩を持ちますね。アガサ・クリスティのいう「台所の流し」(必要欠くべからざるものだが、どこにも謎がない)のような女を演じたティルダは、母親をこう解釈していました。「彼女が母としてしか存在していないことに重要な意味がある。わたしにしてはずいぶん珍しい役だと思った」。平凡に推移する家庭生活でも、板子一枚下は地獄、という世の現実があります。知らないだけかもしれないし、気づいてしまったけれど、知らないふりをしているうちに、別のシチュエーションに移行することもあるし。ティム監督がヒンめくった「板子一枚下」は、こんな映画になったわけね。

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