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特集「ディーバ(大女優)」

2015年10月9日

特集「ディーバ14」ティルダ・スウィントン
ザ・ガーデン(1991年 社会派映画)

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監督 デレク・ジャーマン

出演 ティルダ・スウィントン

ティルダのミッション・インポッシブル 

デレク・ジャーマンがインタビューでかなりくわしく本作について述べています。彼は晩年の10年をドーバー海峡に面したダンジュネスの家(というより漁師の小屋)で暮らした。毎日そこで見た夜明け、日没の太陽、海の色、風と雲の流れ、荒涼とした砂浜、打ち上げられた廃船、そんな象形が彼の世界観を映像に変換しました。鳥の羽をむしるティルダ・スウィントンとか、空と地平しかない荒野に燃える野火とか、一方で荒廃を、一方でアメリカ女性が登場し、これからはピンクです、赤は死んだ、黒は死んだとか言う。意味なんか理解してくれとデレクは頼んでいないと思う。ティルダなんかマリアになったり物売りになったり、お妃になったりしますが、セリフがひとつもないので、観客はデレクのイメージについていくのか、拒否するのか、おもしろがるのか、腹をたてるのか、はて、どうするか迷ってしまう。そのうち、海の浅瀬に運びだされたベッドで横たわっていたのはたぶんキリストだよな、それにしちゃ年配すぎるけど…そうか、あの年まで生きていたとしたら、キリストも介護が必要になったってことか、よし、それでつぎは何がでてくるのだ、という気になってきます(笑)。本作のこういう見方は、あながち間違いではないらしいと、あとで思い当たりましたけど▼ラストは「燃えカス」です。黒いひらひらした燃えカスが砂浜に落ちて風が拭いて舞い上がり霧散する。はかなさを嘆く、なんてものじゃない、どうしようもなくアッケにとられるエンドです。「わたしはこの空虚を君とわかちあいたい」云々という字幕がラストにでますが、本作に初めから終わりまでつきあうと、いやというほどわかちあってきたあとですから説得力があります。ダンジュネスのデレク・ジャーマンの家の近くに原発があって、それでなくともあたりが荒涼としているのに、原発が世紀末を象徴し、日没の真っ赤な雲などは地獄の煉獄を思わせる、そんな風景が気にいったらしい。家はここにするべきだと主張したのはティルダだといいますから、デレク・ジャーマン組の感性を100%発揮した映画だと思います。映画は入り組んだ構造で、およそ解釈とか説明を拒否していますが、映像に現れるのはゲイの愛しあう男性ふたりであり、彼らは迫害され、追い詰められる。キリストもたいして救いになっているように思えない。デレク・ジャーマンは「庭」とは「エデンの園」のイメージであり「天国」を意味する「ガーデン」と同じことを意味する、と解釈していますが、キリスト教の門外漢からするとどうにもこうにもお手上げである▼天国のことはさておき、唯一確かなことは、「庭」がデレク・ジャーマンの個人的な「庭」から生まれたことだ。彼は朝に夕に、この庭を眺め、海を見て風を感じ、死の予感を確信しつつ映画を作っている。できあがった映画を「庭」と名づけたのは、デレク・ジャーマンが映画とは、創作とは徹頭徹尾個人的なものだ、個人的なものでなければ映画にならないと信じていたからだ。いうなれば彼は自分の感性と心中したのである。エイズが進行していた。この世にいる時間はあとどれくらい、神も仏もどんな力になれるのだろう。撮影のあいだじゅう、デレク・ジャーマンはインタビューで見る限り明るく、快活だった。ティルダはあるシーンの自分の演技に疑問をもち、そこはこうしたほうがいいと思う、ちょっと考えさせて、と沈黙している。そうか、彼女はこういう雰囲気で女優となったのだと思い当たった。それはとても新鮮な発見で、あらためて彼女の映画デビュー作がデレク・ジャーマンの「カラバッジオ」だったことを思い出した。あのときはまだストーリーがあったが、デレク・ジャーマンは本作で、自分の仕事をバラバラに解体してしまった。破壊したのではなく、そういう形にしないと表わせないものに突き当たってしまったというしかない▼だから彼の命が短くなるにつれ、物語はコラージュされ、スタイルはドキュメントに近くなっている。気取っていうならカフカ的黙示録に入っていく。限りなく抽象化されていくイメージを、限りなく具体的にスクリーンに映像化する。デレク・ジャーマンの求めるとんでもない作業…映画を変える、映画の可能性を変える、映画の面白さを変える、その作業はまさに「ミッション・インポッシブル」だったにちがいない(笑)▼その「ミッション」をティルダはこう語っている。「ここはホームよ。帰ってくるところよ。デレクの仕事のやりかたはチームでいっしょに働くの。すばらしいのは同じ核を担っている人が、毎日いっしょに仕事することよ。この国でそんなふうに働くのはすごくぜいたくなことなの。だけどわたしたちの仕事にはそれが不可欠なのよ。仕事ってみんなが同じように感じることから始まるでしょ。それが大切なの。本当にお互いを理解しあわないといけない。彼は道でなにかを見、石に何かを見る人なの。そんな感性はすごく貴重な神からの授かりものだと思うわ。ほとんどの子供が持っている能力を、大人になっても持っている人なの。彼はわたしの仕事を手直ししたりしない。わたしがやりたいようにならせてくれる。すばらしいわ。この映画は〈庭〉に関する映画を作りたいと、わたしたちがずっとアイデアをあたためてきたものなの」。リハーサルの最中に疑問をもつと「考えさせて」と言って、中断するような女優さんですから、ほうっておくのがいちばんよかったと思いますが(笑)。独立系からは絶対足抜けしないと、ティルダが誓っているのがわかるような気がします。

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