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特集「ディーバ(大女優)」

2015年10月11日

特集「ディーバ14」ティルダ・スウィントン
猟人日記(2005年 犯罪映画)

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監督 デヴィッド・マッケンジー

出演 ユアン・マクレガー/ティルダ・スウィントン/エミリー・モーティマー

毒りんごを持つ少年 

ティルダ・スウィントンが「前衛のグレタ・ガルボ」と言われだしたのはいつごろからだっただろう。良家の子女教育に例外なく、彼女も全寮制女子校に進学した。ダイアナ・スペンサーもいた。ティルダは短距離の名選手で、走ることと学校の自由な雰囲気を愛していた…これがその時代の名残だな、と思いながらエラ(ティルダ・スウィントン)が、運河に落ち、引き上げられた息子のもとに走ってくるシーンを見ていた。ティルダはこう考えたのだろう。エラは荷役船で暮らす貧しい主婦だ。5歳くらいの息子ジムがいる。船の暮らしで脚は弱っている。洗濯物を干す、ジャガイモの皮を剥く、食事を作る、石炭のあげおろしで真っ黒になった夫とその助手、ジョーが体を拭く湯をわかし、甲板に運ぶ、夫が手を離せない時は船を操舵する、こんな暮らしで、スポーツジムやエステに行けはしない。そんな彼女が必死になって走るときはどんなフォームだろう。アンジーのように美しく力強く走るか。とんでもない。ティルダはバッタのような長い手と脚を、見苦しくもがきながら夢中で息子のそばに走ってくる。うまいな、と思った(スピードはかなり速かったけどね)▼主人公のジョー(ユアン・マクレガー)は絶倫のクズ男です。本作ではまずエラと不倫、自分を2年間養ってくれたキャシー(エミリー・モーティマー)、亭主に死なれ姉のエラに船にひきとられた妹、船を出て見つけた下宿先の主婦といたるところで関係を持つ。愛とかモラルとか委細関係なし。彼は人さわりがよく、繊細でよく気がつき、そのくせ押し付けがましくなく、自分を主張しない。空気のようなソフトな目つきで見つめると、心がさびしい女は、彼が自分を愛していると思う。話が後先になったが、冒頭、荷船の上からジョーは若い女の水死体を発見する。スリップ一枚でグラスゴーのクライド川に浮かんでいた。警察に通報して遺体は引き取られた。2週間後、警察は殺人事件だとして、女と親しかったという配管工を逮捕する▼水死体はキャシーだ。2年前海岸でジョーがナンパし、同棲した。ジョーは作家志望だった。キャシーが仕事から帰ってくると彼は飲んでいるか寝ているか。ほかに彼がすることといえばセックスと暴力である。キャシーは男と別れる。キャシーの部屋から出たとたん、男はタイプライターを川に放り込む。作家になる志もドブンである。別れてからひさしぶりに町でキャシーに出会った。よりを戻したふたりのセックスがまあ、トラックの車輪の影とはいえ、夜の川べりの路上である。キャシーは妊娠したと告げる。子供は嫌いだ、船にガキがいるが川にほうりこみたくなるとジョー。「君もぼくが夫なんていやだろう。ほかに男はいないのか」…こんな男、実際にはいくらでもいるとわかりつつ、吐き気がする。「2年間あなたを養ったわ」ほかに言いようはないのか、と女は言いたかったであろう。キャシーの手をふりほどいたはずみに彼女は川に落ちた。泳げないことを男は知っていながら夜陰に乗じてその場を立ち去る。エラの息子が川に落ちた時は飛び込んで助けたのだから、ジョーは泳げるのだ。女が妊娠したから見殺しにしたのね▼エラはどんな女か。ティルダは痩せてとんがったキツネみたいな顔で現れる。色落ちしたふらふらのスカート、元の色も見分けられないブラウス、髪はバラバラでペタンコの靴というよりスリッパ、寝るときは肩の後ろに大きな穴のあいたネグリジェ。ものを食べるときは口いっぱい頬張り、くちゃくちゃと咀嚼し、舌の先で歯茎についた食べ滓をこそげとる。夫のレスは不能ときている。ジョーは一言でいうと色魔だ。新しい女とセックスしたいだけで近づく。夕食時テーブルの下で手を伸ばし、エラの太ももにさわり、パンティの中に指をいれた。そのパンティときたら、厚手の木綿のゴワゴワの頑丈一筋、ブルマのようなズロースなのだ。エラは手を払いのけるが、ジョーは屁とも思わず、亭主の留守を狙って近づく。ジョーとの関係は夫のレスの知るところとなる。出て行くというジョーにレスは「これはエラの船だ。おれが出て行く」と船を降りる。初老で無学で貧しいかもしれないが、わたしはなんとなくレスという男が好きよ。荷物をとりに戻ってきたレスが「坊主は元気にしているか」とエラに聞く。「自分で見たら」とつっけんどんな返事。「オレの実家にひきとろうか、おふくろもいるし面倒をみてやれる」とレスはやさしい。「自分で言ったら」「息子によろしく伝えてくれ」「そう言いなさいよ」ツバでも吐きそうな剣幕である▼エラはジョーが自分と結婚するものと思っていたから強気だった。早く離婚手続きをすませ、お金を貯めてエジンバラ郊外に別荘を持つのが夢なのと、ジョーの目の前で大きな口をあけ、真っ赤な口紅をひくエラにジョーは寒気を覚えている。エラの息子はジョーが命の恩人であるにもかかわらず毛嫌いする。「挨拶を」とエラが促すと「バカヤロー」と怒鳴る。自分の妹とジョーが関係したことを察したエラはジョーと別れレスと関係を修復する。殺人容疑で逮捕された配管工は死刑と決まる。彼は無罪ですとジョーは匿名の手紙を書くが考慮されなかった。ジョーは少しの間はうしろめたいかもしれないが、また寂しげな女をものにし、コバンザメのように吸いついて生きていくだろう。エラもキャシーもバカな男にひっかかった愚かな女かもしれないが、男が人生の「いいトコ取り」をして、まして女が殺されていい筋合いはないのだ。それで立場の弱い、生活にくたびれた女たちなのだ。男を当てにしていっときの夢をみたのが彼女らの落ち度なのか。この映画、女をバカにしていない? ティルダはインタビューにこう答えている。「社会との関わり方、他人との強いつながり、家族を築くこと、強さへの欲求。疲れ果てた現代人の姿が描かれている」プッ。取り柄はヒモになるだけの男を、なんで社会とか現代人の問題に拡大拡散するのよ。それに「いつも毒りんごを持った少年がいる」ですって。ティルダ、世間には悟りの遅い人もいるゆえ、自分の見解を主張するときは明晰でなければ。そんな曖昧なこと言っていたら、師匠デレク・ジャーマンが泣くわよ。ティルダお姫様にはちょっとガラの悪い言い方かもしれないけど「いい年こいて少年を装ったやさしげな詐欺男がいる、そいつがみせびらかす孤独という美しい毒りんごは、無視するか逆に喰らわせてやれ、クソやろう」これでいいいのよ。ちょっと憂鬱だけど、でも見応えのある映画です。

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