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特集「更けゆく秋はスパニッシュミステリー」

2015年10月16日

特集「更けゆく秋はスパニッシュミステリー」①
ロスト・ボディ(2013年 サスペンス映画) 

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監督 オリオル・パウロ

出演 ホセ・コロナド/ベレン・エルダ/アウラ・ガリード

スペイン映画の底力

スパニッシュ・サスペンスには「スペイン映画の底力」ともいうべき、映画作りの情熱が脈打っています。単純であって単純ではない、綾なす織り。スカッと「単純一直線」のハリウッドとはちょっと異なる、癖のある「暗さ」に惹かれるのです。スペイン映画に台頭してきたオリオル・パウロ監督に拍手。彼は「ロスト・アイズ」では脚本を担当しています。「ボディ」でも「アイズ」でも、ベレン・ルエダが主演のひとりだったのはうれしい。「永遠のこどもたち」の、哀切のラストシーンは忘れられないし、それに「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロや、「海を飛ぶ夢」ではアレハンドロ・アメナーバル、つまりスペイン映画の背骨をもになう監督たちと、ベレン・エルダは映画づくりにかかわってきています。「ロスト」3作目の「ロスト・フロア」も楽しみです。ホセ・コロナドは「悪人に平穏なし」で2012年度ゴヤ賞の主演男優賞受賞の実力派です▼見終わると、観客に仕掛けられた罠は「あれもそうか、これもそうだった」とけっこう思い当たるのでけど、引っ掛け方が悪辣じゃないのよね。それにね、終盤「なんだ、結局妄想オチでかたづけるのかよ」と鼻しらむのは一瞬だけ。とっくにそれは計算済みで、つぎのシーンから最高のどんでん返しが待っている。しかも主要登場人物は4人ですよ、たった4人。だからこいつが犯人だろうと、ハナから察しがついて当然なのね。でもそれは計算済みなの。犯人当てが目的じゃない、そんなのとっくにわかっているのだと思わせておいて逆転する、じゃ、どこにトリックがあるの、と思わせながらジワジワ真相に迫っていく。映像の切り替えと時間列の組み合わせを巧みに交錯させ、といって複雑すぎないプロットだから(ええい、めんどうくさい、どうでもいいから、ファイナルをみてやれ)と早送りするのはもったいない、きちんとみていれば、かなり大雑把なわたしのアタマでも理解できる。そこが(お前ら、わからんかったら、わからんで、しゃあないわ)というえらい監督とちがう(笑)▼夜中にたたき起こされたハイメ警部(ホセ・コロナド)は、亡くなったばかりの大富豪の女性マイカ(ベレン・ルエダ)の遺体が死体安置所から消えていることを確認する。マイカはいくつもの企業のオーナーであり、年下の夫アレックスが社長を務める。警部は妻を失ったばかりの夫が、さっそく妻を過去形で話すあっさりした態度に違和感を覚える。「おれなんな未だに過去形で話せない」のに。案の定アレックスは、金持ちで支配的なマイカに疎ましくなり、女子大生のカルラと不倫していた。マイカを間違いなく殺したとアレックスはカルラに断言する。ではだれが遺体を「誘拐」したのか。検視官は「カタレプシー」(強硬症)の疑いをだく。つまり彼女は生きていたのではないか。ではなんのために。アレックスは妻が自分の不倫に気づき、復讐のため仕組んだのではないかと白状する。蘇生するために命の危険を犯してまで復讐するか、という警部の質問に「彼女ならやる」と夫は答えるのだ。そんなに女房が怖いのだったら、はじめから馬鹿なこと考えなきゃいいでしょ。この映画に不自然感があるとしたらここね(笑)▼警部にはつらい過去があった。最愛の妻を10年前交通事故で亡くしたのだ。同乗していた娘はかろうじて助かり、ベルリンの大学で勉強している。瀕死の妻を抱いて「救急車を」と叫ぶ警部をみすて犯人の車は逃走した。手がかりはなにもなかった。アレックスは妻が生きていて仕返しをたくらんでいる、だからカルラがあぶない、彼女を守ってほしいと警部に訴える。警部が調べると、彼がいう住所にはだれも住んでおらず、大学に在籍もしていなかった。極度の神経症による妄想だと警部は断定したが、アレックスにしたら妄想どころではない、マイカはまちがいなく殺した、方法と薬物はかくかくしかじかと、すっかり警部にゲロしてしまい、風でトイレのドアがバタンと鳴っても、窓がギイ~といっても飛び上がる。そこへ部下から「林のなかに死体らしいものが発見された」と報告がはいり、警部はアレックスを連行して現場に急行した▼遺体を収容するケースのファスナーがおろされ、現れた死に顔はマイカだった。マイカは死んでいた。アレックスはすべてを自白したあとである。手錠のまま逃走するアレクスを、警部がゆっくりと追っていく。あわてる気配も部下をよぶ素振りもない。ここですべてが明らかになります。最初からたびたび時計の針が示す時刻がなんどか映ります。夜中から始まり、徹夜の捜査となり、アレックスが愛人に何度となくケータイで連絡をとり、マイカの遺品が調べられ、なくなっているケータイのつながったさきはレストラン…アレックスの記憶にあるレストランがよみがえる、という具合に、ひとつのピースがつぎのピースにはまりこみ、意味が生じ、最後に、時計が暗示していた最大の意味にゆきつきます。ネタバレはやめますね。ネタバレしてもしなくても、どっちみちつまらん映画だといくらでも書きますが、傑作スパニッシュ・ホラーへのリスペクトとして、やめておきます。

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