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特集「更けゆく秋はスパニッシュミステリー」

2015年10月19日

特集「更けゆく秋はスパニッシュミステリー」
ロスト・アイズ(2011年 サスペンス映画)

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監督 ギリェム・モラリス

出演 ベレン・エルダ/ルイス・オマール

宇宙はきみの瞳の中に 

双子の姉になにかよくないことが起こった、そう直感したフリア(ベレン・エルダ)は夫のイサク(ルイス・オマール)とともに半年ぶりに姉サラを訪ねた。発見したのは首を吊った姉の変わり果てた姿だ。姉は進行性視力衰退で角膜移植の手術をうけたばかりだった。自殺などするはずがない。姉は殺されたのだと確信したフリアは、姉の身辺を調べる。隣家には一人住まいの全盲の老婦人ソレダトと、発達障害の娘リアをかかえた父ブラスコ。サラが通っていた盲人福祉センターで姉に恋人らしき人物がいたこと、だれも彼をみたことがないこと、サラは孤独でほとんど人付き合いがなかったこと、恋人と2週間ベリャビスタ・ホテルに行くと言っていた、などの情報を得る。フリアはセンターで自分を伺っていた男に気づき、追いかけるが見失った。フリアにも姉と同じ眼疾の症状が出始めていた。あと一月程度で完全に見えなくなると医師は言う。ストレスと疲労が病気の進行を加速させる原因になる。夫は「幽霊の調査などやめろ」と中止させようとするが、フリアは姉の不審死の真相をつきとめようとする▼オープニングからベレン・エルダの首吊りシーンです。サラは他殺であるとここで観客に知らされます。サラの恋人はどんな男だったかと、目撃したホテルの清掃係にきくと「透明人間です。彼がそこにいても、だれも気がつかない、だれもその男のことを覚えていないでしょう。部屋に入っても彼を見ない。だれも彼に話しかけない。わたしも同類だからよくわかるのです」そこにいてもわからない、というのは、たとえば病院内の看護師や医師、厨房のなかのコック、警察署のなかの制服を着た警官などがあるが、清掃係の説明はもう少し複雑だ。「その男の瞳には激しい怒りがありました。影のような存在が世の中に対し、怒りを抱いたらとても危険です」。彼はこの直後バスタブで感電死する。フリアはますます、サラの死に謎がからみついていることを感じる▼サラの隣人たちも変わっていた。発達障害の娘をかかえたブラスコは、フリアにつきまとう。全盲のソレダトにはアンヘルという息子がいて、家を出たきり帰ってこない。イサクはサラの角膜移植が失敗だったとフリアに教え、失明が決まったゆえのショック状態で自殺したのだと主張する。サラは気落ちし自分が失明する前に、最後にみたいのは、初めて出会ったサハラ砂漠でいっしょに見た星空だとイサクに言う。あのとき「あなたは君の瞳に宇宙が見えると言った」と。このセリフがラストに生きてきます。清掃係は殺される前に「地下の駐車場に記録ビデオをあるはず」とフリアにアドバイスしていた。フリアは受け取りにいこうとしたがイサクはおしとどめ、自分が行くといって車を降りたまま帰ってこなかった。拉致されたのだ。その夜だれもいないサラの家に電気がついていると通報があり、警察がいくと地下室でイサクが首を吊っていた。フリアは失明した。遺書があった。読んだ刑事は「ご主人はサラとつきあっていた。あなたに詫びている」と伝えた▼フリアに角膜のドナーが現れ手術が施された。介護人イバンの世話を受け「2週間絶対に包帯を取らないこと、とれば失明し手術はもうできない」と医師から宣告される。イバンの手厚い介護でフリアは明るさを取り戻す。あと4日で包帯が取れるとなったとき、再び影のような男の存在をフリアは感じるようになった。隣のリアがやってきて「あなたを監視していたのはわたしよ。針をもっていた悪魔はあなたの介護人よ。わたしは見たのよ。彼の部屋にはあなたとサラの写真が壁一面に貼ってあるわ。早くここを逃げるのよ。包帯はまだ取れない? じゃ窓からは無理ね。風呂場から脱出するから、迎えにきたらすぐ出られるようにして」そういって先回りする。イバンがきた。彼はフリアの目がやがて見えるようになるとわかって、サラと同様、針を目につきさし失明させようとする。なぜか。「世間のやつらはオレに一顧も与えなかった。オレを無視した。でも盲人にはおれの存在がわかる。大事にしてくれる。おれがいなくては困るのだ」って、あきれたわね。だから惚れたサラやフリアを盲人にしようって魂胆なのよ▼そもそもイバンがそんな「影のような男」になったのはなぜか。そこへ現れたのが隣家の老婦人ソレダトだ。なんと彼女は眼が見えるのだ。彼女がイバンによびかけた名は「アンヘル!」彼女の息子だった。フリアは待ちきれなくて包帯をとってしまい、一時的に視力はもどったのですが、イバン、いやアンヘルの前では見えないふりをします。アンヘルはフリアが本当に見えていないのか確かめるために、大きなトランクの前に連れてきて「開けろ」という、手さぐりで開いた中には殺された本当のイバンが氷詰めになって入っていた。サラは見えないことになっているので驚きを押し隠します。リアは殺されてしまった。ソレダトが息子に言うには「わたしなしではお前になんの価値もない。いないも同然。でもわたしの息子よ。わたしが守ってあげる」。ものすごいお母さんだわね。母親から「お前なんか価値がない」と呪文のようにいわれ続けてきたら、そら、存在感も薄くなりますよ。母親は自分を認めさせたいばかりに、愛情を裏返した言い方をしているのですが、子供は額面通り受け取るじゃないですか。でもある程度成長すると、自分をこんな男にしたのは母親だと憎み、愛憎半ばするアンヘルは母親を殺しちゃう。「サイコ」みたいです▼フリアはヒューズを切って家中の灯りを落とし暗闇の中で身を潜める。ここは「暗くなるまでまって」ね。でもアンヘルはカメラのフラッシュをたきながらフリアを追い詰める。ここは「裏窓」。刑事が突入してアンヘルは自殺。フリアは助かるのですが、病院に運ばれ、目を診察した主治医にフリアはきく。「あとどれくらい?」「夜明けは見られないよ」フリアは夫の遺体にあわせてくれと頼む。保管室でフリアがみた夫の角膜は除去されていた。「彼が望む人に譲られたのです」と医師が教えた。フリアはかすみつつある最後の視力で鏡に向かいます。自分の顔がみえる。砂漠で星を見上げていたフリアがふと気づくと、イサクはフリアをみていた。「どうしてあの宇宙をみないの?」ときくと「君の瞳のなかに宇宙がある」と答えた。この世でみたかった最後のものは「ふたりでいっしょにみる星空」だった。この瞳のなかにイサクが残してくれたそれはあるのだ…。登場人物は極端に少ないのですが、不倫、殺人、病気、失明、それに透明人間なんてキーワードなどがうまくからみあって老婦人やその息子の、かなり都合のいい出現はありましたが、最後までひっぱったベレン・エルダの敢闘に拍手。

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