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特集「更けゆく秋はスパニッシュミステリー」

2015年10月21日

特集「更けゆく秋はスパニッシュミステリー」
オックスフォード連続殺人事件(2008年 ミステリー映画)

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監督 アレックス・デ・ラ・イグレシア

出演 イライジャ・ウッド/ジョン・ハート

本当の犯人は君だよ 

「スペインの誇る天才」という枕詞がよくつく、アレックス・デ・ラ・イグレシア監督です。最近作に「スガラムルディの魔女」があります。イグレシアス監督ってよほど天才好き・哲学好きなのでしょうか。セルダム教授は世界的な数学者。ウィトゲンシュタインの「哲学論考」を引き、「真実を知ることは可能か。数学は感情の影響を受けない不変の言語だから、ウィトゲンシュタインの結論は、数学的真理の外に絶対的真理は存在しないというものだった」。(あ、そう)というしかない難しい解釈を先生はとうとうと垂れるのです。大数学者の教えを受けたいとオックスフォードに留学したのが、もうひとりの主人公、マーティン(イライジャ・ウッド)。彼が下宿先のイーグルトン夫人の家に到着した日、彼女の夫はこれまた天才数学者で、暗号解読機「エニグマ」開発にアラン・チューリングとかかわったとか、あっちを向いてもこっちを見ても天才が登場します。でも「イミテーション・ゲーム」より7年も前に、「エニグマ」の名前を映画で聞いて、とても新鮮でした▼「連続殺人事件」だからつぎつぎ人が殺されるわけですが、斧でバッサリとか、ナイフで心臓一突きとかの血なまぐさいシーンはいっさいありません。教授にいわせると「死期まぢか」の人ばかりで、彼の口ぶりでは(ひと思いに殺されてさいわいだった)といわんばかり。殺人事件が粛々と進むのに反して、マーティンの恋愛が華麗すぎるではないですか。美少年の面影がほとんど消えたイライジャ・ウッドがなんでこんなにもてるのかふしぎになるくらい、イグレシア監督は趣向を凝らすのです。ヌードの肌にスパゲッティをおき、トマトソースで口や胸をベトベトにしながらスパゲッティを吸い込むとか、素っ裸にエプロンだけつけた恋人が台所に立つとか、イギリスに来たばかりの田舎者丸出しのマーティンに、熟女が言い寄るとか、なんでそうなるのと、首をひねりたくなるマーティンが、無味乾燥、迫力ゼロの連続殺人事件に、かろうじて彩りを添える▼事件の真相は数学にも天才にもまったく関係なし。アガサ・クリスティの「三幕の殺人」を読んだ方なら、謎解きに思い当たるでしょう。セルダム教授は30年前に自動車事故を起こし、同乗していたイーグルトン夫人の夫と自分の妻を死なせてしまった。父親を亡くしたベスの後見人として面倒をみてきた、というがじつは関係があった。ベスはチェロの奏者である。母親の介護がベスの自由を束縛し、彼女は母親を憎んでいた。ある日ベスは母親を発作的に殺してしまう。ベスが犯人だとわかった教授は、そのままだとベスに容疑がかかるから、末期症状の患者を選び第二・第三の殺人を起こす。それに便乗しようとした男がいた。彼は知的障害のある子供たちを送り迎えするスクールバスの運転手。同い年くらいの娘に臓器移植させたいため、子供たちのバスを転覆炎上させ、ドナーにするという計画を実行し自分も死んじゃう▼マーティンは教授が結果的になんの罪もない子供たちの死を誘発したと難詰する。ところが教授は「本当の犯人は君だよ」と指摘する。「バカなこと、言うな」と目を剥くマーティンに「ベスは君が好きだった。君がベスの愛に応えていたら連続殺人は起きようがなかった」愛する男に「自由になりたい」と訴えたベスに、マーティンは「やってみたら?」と言った「行動のススメ」を、真に受けて実行したというわけ。でもそれでもってマーティンが「真犯人」だといわれてもなあ。バカにしている。衒学的なセリフの速射砲で、知的煙幕を張り巡らしてきたわりには、お粗末な結末。な~んだ、というのが実感でした。

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