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シネマ365日

2015年11月3日

特集「もてるにもホドがある70代」カトリーヌ・ドヌーヴ③
終電車(1982年 恋愛映画)

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監督 フランソワ・トリュフォー

出演 カトリーヌ・ドヌーヴ/ジェラール・ドパルデュー

シネマ365日 No.1558

初めにドヌーヴありき 

特集「もてるにもホドがある70代」カトリーヌ・ドヌーヴ②

セザール賞主要10部門を独占した、フランソワ・トリュフォーの最大のヒット作です。気の毒なことに彼は、この4年後52歳の若さでなくなるのです。トリュフォーとドヌーヴは「暗くなるまでこの恋を」でいっしょに仕事をし、2年ほど同棲、別れたのちも友人として交友が続きました。トリュフォーにはこういうケース、多いですね。「突然炎のごとく」ではジャンヌ・モローと知り合い、その後親友として「黒衣の花嫁」などを撮った。そうそう、ドヌーヴと別れた彼の、つぎなる女性となったのは「アメリカの夜」のジャクリーン・ビセットでした。彼女によってトリュフォーは自信を取り戻したそうです。ということはドヌーヴと別れたあと、彼は自信喪失してウツ症状になっていたといいますから、よほど応えたにちがいない。ドヌーヴが煮え切らないトリュフォーと別れたのは、彼には結婚回避というか、家族許否症というか「一家団欒は敵」みたいな不信と不安があったのだと思います。父親を知りませんし、愛情に包まれた環境ではなかったですからね▼それはともかく、トリュフォーがドヌーヴのために作ったという本作。もっとも彼はジャンヌ・モローのためにもファニー・アルダンのためにも映画を作っている、要は女優によってインスピレーションを得ること、多大な監督でした。ドヌーヴは37歳、トリュフォーは48歳のときの映画です。大ヒットしたというのも、そらわかるわ。第二次大戦のドイツ軍占領下、パリは南北に分断され夜の外出は禁止、市街はまっくら。唯一明かりのついている劇場に集まるのが市民の楽しみでした。モンパルナス劇場の主演女優はマリオン(カトリーヌ・ドヌーヴ)。演出家である夫のルカは、ユダヤ人であるゆえ南米に逃亡した。マリオンは夫にかわり劇場を運営し、かつ舞台に立ち、ナチの妨害にも負けず公演を続けている…とまあ、フランス人ならふるいつきたくなるような、健気でしっかり者で、強く、胸キュンとくるヒロインですもん▼ところがだ。ここが恋愛映画の名手トリュフォーのいやらしいところで、亭主は劇場の地下に隠れているのだ。マリオンは夜毎、舞台が終わったあと飲み会にも気晴らしにもいかず夫にあいにいく。夫は「こんなところに閉じこもって、気が狂いそうだ、耐えられない、警察にいく」「行ったら収容所送りよ。いうこときかないなら殴るわよ」マリオンは鉄のパイプで夫をガツンとやり「わたしってひどいことを。まるで人殺しだわ。ここをもっと快適にしましょうね。住み心地よくするわ」とやさしくタンコブをなで、薄汚い地下室に「今夜は泊まっていくわ」なんて…トリュフォー、これ、君がしてほしかったことだろ! マリオンの相手役がベルナール(ジェラール・ドパルデュー)だ。彼は32歳だった。すでに肥満で背中の肉が盛り上がっている。モンパルナス劇場に来る前は怪奇座にいたという前歴に、なるほどと思う。もちろんトリュフォーのおふざけである▼夫は通風口を通じて、聞こえてくる役者たちの声の調子でリハーサルの状態を知り、指示をだす。マリオンはベルナールに惹かれているのだが、抑制して距離を保つ。初日は大成功だった。夫は妻の成功が気にいらない。不遇の自分に比べ妻の賞賛は不公平だ、気にいらん、あそこがダメだった、ここが悪いとケチをつけ、嫉妬に狂って成功を喜べない夫に、マリオンは失望する。評論家のダクシアは劇評でマリオンをくそみそにこきおろし、面当てがましくベルナールをほめるが「お前の批評などクソだ、マリオンに謝れ」とダクシアをブン殴ったベルナールに、マリオンは「暴力沙汰なんか起こしたら劇場が閉鎖される、このバカ」と怒るが、心は一挙に距離を縮める。ベルナールがレジスタンスに身を呈するため劇場を去るという夜、とうとうどっちもがしっかり求め合う▼ラスト近く、トリュフォーのどんでん返し趣向の寸劇がはさまり、結局どうなるか。パリは連合軍によって解放され、夫は800日ぶりに地下室から出て日の下に。モンパルナス劇場では、夫とベルナールが左右に、マリオンはふたりと両手をつなぎ、カーテンコールで艶然と微笑むのだ。このシーン、おや、と思いません。「突然炎のごとく」でジュールとジムの二人の男に愛されるジャンヌ・モローが、ラストで事故死しなかったらこういう構図になっていたのでは▼大好きなシャンソンを、劇中効果的に使うのもトリュフォーの特色で、「突然炎をごとく」ではジャンヌ・モローの歌が、本作では「サンジャンの恋人」がオープニングと劇中で歌われています。リュシエンヌ・ドリールの1942年のシャンソンです。いい歌ですね。日本では美輪明宏さんの歌で「アコルデオンの流れに/誘われいつの間にか/サンジャンの人並みに/わたしは抱かれていた/甘いささやきなら/信じてしまうもの/あの腕に抱かれれば/誰だってそれっきりよ/あの眼差しにみつめられた時から/もうわたしはあの人のものよ」が知られています。

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