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シネマ365日

2015年11月5日

特集「もてるにもホドがある70代」カトリーヌ・ドヌーヴ⑤
シェルブールの雨傘(1964年 ミュージカル映画)

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監督 ジャック・ドゥミ

出演 カトリーヌ・ドヌーヴ/ニーノ・カステルヌオーヴォ

シネマ365日 No.1560

おしゃべりな映画 

特集「もてるにもホドがある70代」カトリーヌ・ドヌーヴ②

ミュージカル不毛の地フランスで、映画史の転回点を作った、という表現も、年月がたてばたつほど決して大袈裟ではないと思われてきます。ジャック・ドゥミのすべての作品がそうであるように、スクリーンに吸い込まれていくようなオープニングで本作も始まります。若い新人監督の、全編セリフがすべて歌という前代未聞の企画に、関係者が面白そうだというのは口だけ、金を出す段になればみな腰を引いた。ただひとり「よし、のった」とひきうけたのがマグ・ボダールでした。彼女は雑誌「ELLE」の特派員から映画界に入った変わり種です。気に入った理由は「前例を真似るだけの映画界では規格外だった」から。子供の頃からあやつり人形とオペレッタに夢中だったジャック少年の、心をとりこにしたのはアメリカのミュージカルでした。いつかミュージカルを撮ることを夢に、彼は映画を志します。本作の音楽はジャックの盟友ミシェル・ルルグラン。美術も衣装も、若い時からジャックと映画作りに携わってきた面々です。シェルブールというフランスの港町が舞台です。ジャックが少年時代を過ごしたのがナントでした。ジャックが好きな、小さな地方都市にあるありふれた出来事を、とびきりのドラマに変えてしまう映画。彼の作品はそんなファンタジーに彩られています▼カトリーヌ・ドヌーヴは雨傘屋のひとり娘ジェヌヴィエーヴ。夫に死なれ母親が女手ひとつで育てた娘で17歳。恋人がいて結婚したいと言う。母親は早過ぎると反対する。ドヌーヴは色とりどりの雨傘が並ぶ店内で、恋人ギイを待っている。雨の中を彼がやってきた。21歳のドヌーヴが(ここよ)と手をふる。お人形さんみたいである。こう書きながら劇中で同じセリフを言われたマリリン・モンロー(「七年目の浮気」)を思い出しました。ドヌーヴ家は長女がドルレアック、次女がドヌーヴ、三女はドヌーヴのマネージャーとなり、三姉妹は生まれたときからどっぷり映画の水につかってきた。監督のことをドヌーヴは「若い時にジャックと出会って幸運だった。女優人生で師と仰ぐ数少ない監督のひとりであり、最初に出会った映画作家」だったと全幅の信頼を寄せている。ロジェ・バディムも監督であったことを思えば「最初に出会った」とは激賞に近い。ジャックもドヌーヴと組んで「ロバと王女」「モン・パリ」を撮っています。後者はジャックの妻アニエス・ヴァルダが妊娠中、「もし男性も妊娠したら女性への態度が変わるのに」と言ったのがきっかけでした。ふと思ったのですが、ジャック・ドゥミの雰囲気が、マルチェロ・マストロヤンニにじつによく似ているのです。あのやわらかさ、ソフトな口調と物腰、さりげないユーモアに頭のよさ。マルチェロってもともとドヌーヴのタイプだったのね▼ジャック・ドゥミは「田舎司祭の日記」が好きだったそうです。ジョルジュ・ベルナノスの原作をロベール・ブレッソンが映画化しました。無理解のなかで孤独に死ぬ司祭の物語でして、これが好きだというようなジャック・ドゥミの映画には、どこか冷たいものが背骨に走っていることもうなずける。あとひとつ、ジャックとブレッソンにはドミニク・サンダという共通項があります。ブレッソンの「やさしい女」はドミニクのデビュー作でした。ドゥミ監督がナントの造船所のストライキを扱った唯一の悲劇「都会の一部屋」はドミニクが自ら命を絶つ映画でした。彼女は同作の劇中、毛皮の前をパッと広げ、下になにも着ていないヌードをアンダーヘアまで見せます。一度だけだったのを二度やって監督に「反抗した」とドミニクは笑っていたほど、このシーンがお気に入りでした。後年ドヌーヴが同じシチュエーションを「赤いブーツ」で撮っています。コートの前を一瞬広げ、金色のヘアまで見せるシーンです。ダブルだという説もありましたが、ドヌーヴみたいに自信満々の女優が、ヌードでひるむとは思えない。けっこうスルスルよく脱いでいるし、自分でやったのだと思います。公開から半世紀たっても、ことほどさように本作はおしゃべりしたくなる内容が、いっぱい詰まっている映画なのです。

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