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シネマ365日

2015年11月9日

特集「もてるにもホドがある70代」カトリーヌ・ドヌーヴ
恋のマノン (1971年 文芸映画)

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監督 ジャン・オーレル

出演 カトリーヌ・ドヌーヴ/サミー・フレー

シネマ365日 No.1564

涙をのんでお別れします 

特集「もてるにもホドがある70代」カトリーヌ・ドヌーヴ

アベ・プレヴォー「マノン・レスコー」が原作です。いわゆる宿命の女ね。プレヴォー描いたところの、男をたぶらかす女のいやらしさというのが、カトリーヌ・ドヌーヴではどうもさっぱりしすぎていましてね。ドヌーヴの悪女とかファム・ファタールといえば「哀しみのトリスターナ」や「暗くなるまでこの恋を」など、ないこともありませんが、シモーヌ・シニョレやジャンヌ・モロー、あるいはステファーヌ・オードランやマレーネ・ディートリッヒのような、悪女でなくとも悪女にみえる女優たちとはちょっとちがうように思う。これにベティ・デイビスを加えると、なにもしなくても体から悪と頽廃を醸す、絵に描いたような悪女を演じてみせる。それに比べると本作のマノンは、悪女のイロハをセリフで説明するのにかかりきり。果物が腐臭一歩手前の爛熟の香りを放つ悪にはほど遠い。とはいえ、原作のマノンとの比較など「野暮なことはいっさいやらないのだ!」と態度を決めるのも、映画を見る作法のひとつであります。なにをさっきからグダグダ書いているかというと、ドヌーヴがこの映画では、たとえば「シン・シティ」(罪の町)の情婦にはホド遠い、お嬢ちゃんにしか見えないってこと(笑)▼ドヌーヴ扮するマノンとその兄のジャン・ポール(ジャン・クロード=ブリアリ)は、ふたりで組んでセレブ男から金をまきあげる美人局(つつもたせ)稼業である。マノンに一目惚れしたパリ放送局の記者デ・グリュー(サミー・フレー)は、稼ぎのしれたサラリーマンだからマノンにしたら相手にしても仕方ないのだが、彼はマノンにゾッコンはまりこんでしまった。マノンは平気でデ・グリューとの約束をすっぽかし、金持ち男と船旅に行った。男を二股かけるたび、彼女がデ・グリューにする言い訳は「捨てないで。お願い。愛しているの」男はほだされズルズルもとの関係に。デ・グリューはマノンに入れあげ仕事も投げやりになり、とうとうクビ。マノンは男にこんな手紙を書く。「わたしのフランソワ。愛するのはあなただけ。世界中であなただけを愛している。でもわたしたちは一文無し。今となっては貞節にこだわるのは愚かなことよ。涙をのんでお別れします。いつか会えることを夢見て。あなたのマノンより」。男ならいざしらず女がこんな手紙を読めば、無邪気なほどのチャッカリさに吹き出してしまうだろう。稼ぎがなくて持ち重りする男など、マノンにすれば「商売あがったり」なのだ▼兄のジャン・ポールにとってマノンは金ヅルである。彼はいい加減な男だがマノンの本質をデ・グリューより理解している。「マノンが情夫を作っても気にするな。君は弟役を演じて大金を稼げ」。弟役というのは、兄妹が目をつけたアメリカ人大富豪にマノンをあてがい、結婚させるなり愛人にするなりして、ひともうけしようという計画だった。金のないデ・グリューはしぶしぶ引き受け「ヤツへの愛は芝居か」とマノンに聞く。「もちろんよ。愛しているのはあなただけよ」「本当にぼくだけか」「そうよ。わたしが人妻になっても愛してくれる?」という調子であるから、マノンとは、時間軸の外で生きている女だと思うしかない。マノンの世界観を紹介すればこうだ「何人の男と寝たかなど、関係ない。何人を愛したか、よ」「愛しているから結婚などしないわ」つまり、彼女が展開するのは常識ではなく「マノンの定理」なのだ▼アメリカ人の実業家をたぶらかす計画は、疑り深いアメリカ人のほうが上手で、正体をあばかれたマノンとデ・グリューは着のみ着のままホテルから逃走、あてどないヒッチハイクでどこに向かうのか、とにかく旅立つ。原作ではマノンの死の旅になるのだが、ドヌーヴは元気いっぱい陽気である。失敗したのは男のせいだとして「計画が台無しよ。ひともうけできたのに、あなたは疫病神だわ。なにさ、能なし、マヌケ。わたしを束縛する気ね。その気なら従順な女になってやるわ。わたしのことを愛していないのね、薄情者!」口いっぱいわめき、男を蹴飛ばす。デ・グリューは微笑むのみ。ここでエンドにするしかないですね。オープニングとエンディングに、バロックふうのきれいなギターのアルペジオが流れます。ドヌーヴはああ見えてサバサバした、あっさりいうなら、「イヴ・サン=ローランを着たオッサン」。そんな軽みのある彼女のキャラを、映画よりむしろ音楽がよく表しています。作曲はセルジュ・ゲンズブール。

 

 

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