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シネマ365日

2015年11月11日

特集「もてるにもホドがある70代」カトリーヌ・ドヌーヴ
モン・パリ (1973年 コメディ映画)

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監督 ジャック・ドゥミ

出演 カトリーヌ・ドヌーヴ/マルチェロ・マストロヤンニ

シネマ365日 No.1566

コテコテのお伽話 

特集「もてるにもホドがある70代」カトリーヌ・ドヌーヴ

「芭蕉に駄句多し」というようにカトリーヌ・ドヌーヴにも駄作は多い。本作はその代表のような一作です。どうしてほめようかと惑乱するような映画ですが、まずこのあたりから。ジャック・ドゥミはカトリーヌ・ドヌーヴと相性がよかった。なにしろドヌーヴを世界に売りだした「シェルブールの雨傘」の監督です。ドヌーヴはジャックのお気に入りだったと、妻のアニエス・ヴェルダも請け合っていました。どこかでふれましたが、ドヌーヴが「雨傘」を撮ったのは21歳のときです。彼女はその2年前、ロジェ・バディムと別れて、息子を産んでいる。19歳の未婚の母だ。男はジェーン・フォンダに走ったのだから、ドヌーヴは捨てられたことになります。それを思うと「雨傘」におけるドヌーヴの復活は、そんじょそこらの気力・体力でできることではない。以後「ロシュフォールの恋人たち」「ロバと王女」そして本作と、4本の映画をドヌーヴはドゥミ監督と撮っています。ドゥミの作品はみな愛と夢と希望で彩られています。生きづらい、現実そのものと戦う「しんどい映画」ではなく、現実を生きやすくするための、心の明るさや前向き志向を人に与え、元気づける映画でした▼このポジティヴ・シンキングにおいて、ドゥミとドヌーヴは兄妹のような「わかちあい」感覚があったと思えます。ドヌーヴが監督や共演者と意気投合することはよくありましたが(フランソワ・トリュフォーがそう、マルチェロ・マストロヤンニがそう)ドゥミとだけはそれがなかった、なかったと思うのです。ふたりとも、アニエス・ヴェルダ姐御がこわかったのかもしれませんが、ドゥミの映画からはドヌーヴの色っぽさとか、セクシーとか、ましてエロチズムというものが、鼻先をかすめるほどにもたちのぼってこないのだ。そのかわり「どんなときにも前向きに生きていた」というドヌーヴの言葉が、ドゥミの映画ほどしっくりくる映画はありません▼それらを考えつつ、本作はどこに着地点があるのだろうと思いながらみていました。粗筋は、夫のマルコ(マルチェロ・マストロヤンニ)が妊娠した、妻イレーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)の子である、産婦人科の医師であり大学の教授によれば「化学物質に汚染された食べ物によるホルモンの異常」である。どういうことかといえば「現代社会の環境汚染により男性は本能を失いつつある。人類のおそるべき敵は食物です。毎日加工食品を食べ、長期にわたる人工食品の摂取が、人間の器官を変化させた。ホルモン漬けのチキンとか。この10年来、ある種のホルモンは男性に作用し、体毛が薄くなる、声が高くなる、感じやすく繊細になる傾向がある。あなたはこの転換社会の選ばれた最初のひとりです。今後多くの男性があとに続くでしょう」▼教授はマルコの症例を学会で発表し、男が妊娠する可能性に世界中が騒然、アパレル会社は男性マタニティを開発し、マルコがモデルになって大々的なキャンペーンを打った。イレーヌは美容院をやっている。イレーヌの店にくる女性たちに「わたしはうれしいわ。もう一人ほしいと思っていたから」と喜ぶ。テレビにもふたりで出演した。世界中でマルコと同じ妊夫がつぎつぎ報告された。「プレイ・ボーイ」「エール」「ニューズウィーク」「ル・マタン」が特集を組んだ。7ヶ月を迎えレントゲンを撮った教授は驚くべき結果を発見する。「カラです」大きくなったお腹は「肥満です」。「店でも町でも笑いものだわ。シドニーやモスクワでの妊夫報告は」「集団ヒステリーでしょう」「ひとりでも本物は」「ありえません」「ひどい」「人間にミスはつきものです」このセリフは「完璧な人間などいない」(「お熱いのがお好き」)を思い出させますね▼産道も子宮も膣口もない妊夫に、どうやって産ませるのか、いったい落とし所はどこなのか、考えていたけど、そうなの、「カラ」だったの。結果は「男の妊娠まったくのホラ話」と新聞がかきたて幕。ふたりは遅れていた結婚式をあげることになり、新郎新婦が盛装したときに、エレーヌが「気分が悪い。わたし妊娠したみたい」というオチでエンド。あほらしいにもホドがあるストーリーを、ドゥミ監督が煮込んでコテコテのお伽話にしています。

 

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