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特集「アニマルフェスティバル」

2018年8月30日

特集「それいけ!アニマルフェスティバル6」④
ロブスター(下)(2016年 社会派映画)

監督 ヨルゴス・ランティモス

出演 コリン・ファレル/レア・セドゥ/ベン・ウィショー/レイチェル・ワイズ

シネマ365日 No.2587

大胆な悪趣味 

ロブスター(下)(2016年 社会派映画)

 恋愛禁止の森のレジスタンス一党ですが、デヴィッドは近視の女性(レイチェル・ワイズ)と恋愛に陥ります。背中がかゆいけど、メタボのデヴィドは手が届かない。レイチェルが掻いてやって仲良くなる。二人の共通項はどっちも近視であること。ところが二人の恋愛に感づいたリーダーは、視力矯正と称して残酷にもレイチェルを失明させます。デヴィッドはこう見えて、犬を殺されても復讐するくらいですから、恋人を失明させられて黙っていない。リーダーを麻酔銃で撃って縛り上げ、サルグツワをかませて墓に放り込む。気が付いたリーダーはもがきますがどうにもならない。そのうち大きな野犬が近づいてくる。リーダーは食い殺されてしまうでしょう。デヴィッドとレイチェルは森を抜け出し、街に戻りレストランに入る。デヴィドは自分も失明したレイチェルと「共通項」を作ろうと、「これでやるよ」とナイフを手に洗面所にいく。ナイフで目を刺そうとします。レイチェルは席でデヴィッドを待っているがなかなか戻りません。映画はそこで終わります▼この映画は幻術の連鎖ですから、たぶんデヴィッドは女を棄てて逃げ出したに違いない、と考えるのが自然でしょう。ホテル派にせよレジスタンス一党にせよ、どっちに転んでも自由と幸せはない、という身も蓋もない映画です。不条理劇というのでしょうか。それにしてもあくまで待つのが女で、逃げる(仮定ですが)のが男とは、どう考えてもアドバンテージは男にある。目の見えない女が一人でどうやって生きていくのか。この辺り、ポイと投げすてる視座が冷たいわね〜。森の中を豚やラクダが歩いていたのは、彼らも禁止事項を破って恋愛した結果、姿を変えられたのでしょう。してみると、ホテル派のように、たとえまやかしの愛でも、愛しているフリをするのが幸福ってわけか。現実感ありますね(笑)▼さらに言うなら、見せかけの「騙し愛」などけしからん、と怒って犬を殺した冷酷非情な女がいちばん正直なわけ? とんでもない、筋道から言えば、冷酷な女が殺すのは犬じゃなく当人のデヴィッドでしょう。所詮彼女は弱い犬を殺しただけじゃない。いろんな解釈を要求する映画です。いきなりですがヒロニエム・ボスの絵「快楽の園」を思い出しました。キャンバスいっぱいにぎっしりと描かれた裸体の男女に魚、鳥、果物、花、個々に名前もなく、国籍年齢も不詳。無数の男女が快楽にふけり、胴体が卵の殻のような男性、人魚がいるかと思えば巨大な鳥が、くちばしから青年に餌を与えている。はかなくて悲しく、滑稽でグロテスクで理解に苦しむ絵なのに、奇妙に感情に訴えてくる。それがそのまま本作の所感に当てはまります。シュールでサイケ、かくまで大胆な悪趣味を見せつけられる映画には、ひたすら無力感がただよいます。コリン・ファレルの思い切りメタボの腹が、悪趣味にいっそう現実感を与えていました。