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特集「銀幕のアーティスト」

2018年9月2日

特集「銀幕のアーティスト8」②
セザンヌと過ごした時間(中)(2017年 事実に基づく映画)

監督 ダニエル・トンプソン

出演 ギョーム・ガリエンヌ/ギョーム・カネ

シネマ365日 No.2590

現実は脳の中にある 

銀幕のアーティスト8

 本作の主人公はセザンヌのように思えますが、私はゾラだと思います。映画の中心をなしているのは、ゾラの小説『制作』をめぐるセザンヌとの対立ですが、確かにセザンヌは一時腹を立てて絶交したがよりをもどしています。セザンヌにとってゾラは怒るほどの相手ではなかった。二人は幼友達で、セレブの息子セザンヌが、貧しい移民の子で、いじめられっ子だったゾラをいつもかばっていた。画業に反対する父親を押し切ってパリに出たが、才能があるとは認められなかった。ゾラもパリに出て作家修行時代だ。売れない作家と画家だった。やがてゾラは「居酒屋」の成功によってベストセラー作家となる。セザンヌは今や世捨て人だ。何年ぶりかでゾラの立派な家を訪問したセザンヌは「本を受け取ったよ。『制作』という題はなんだ。僕らの友情は思い出の彼方か。僕をバカにしたいんだな。今回の取材は簡単だったろう。俺の弱さ、悩み、無能を書いて、俺にも印税を払えよ。この小説こそ歪んだ鏡だ」▼二人はそれこそ親友だった。「難破者が板にしがみつくように僕は君にしがみついた。君は僕の青春のすべてだ。君の中に僕の喜びや苦しみが詰まっている」そして絵が認められないセザンヌを励ます。「勇気を出せ。もう一度絵筆をとって想像力を羽ばたかせろ。君を信じている」。そんなゾラがセザンヌを理解していなかったはずはない。セザンヌが『制作』で不満をぶちまけたのは劇中の画家が自殺したからだ。「絵一枚が気にいらなくて自殺する画家がいたら、俺なんか何度死なねばならん。気にいらなければ破り捨ててまた描くだけさ」。ゾラに見えていた自分はこんな弱い男だったのか。実に腹立たしい。しかし一度は腹を立てたものの、怒りがいつまでも続かなかったことを思うと、ゾラの小説がセザンヌを徹底的に傷つけたとは思えない▼セザンヌは女を幸福にするやさしさも甘さも持とうとしない、死に神に魂を売り渡したような男だった。ゾラは女性に救済と慰めを求める男。そんなゾラが作った『制作』の主人公の弱々しさは、セザンヌを誤解したというより、自分とは異質の強さを持った男への復讐だったような気がする。