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特集「銀幕のアーティスト」

2018年9月6日

特集「銀幕のアーティスト8」⑥
ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ(上)(2017年 事実に基づく映画)

監督 メアリー・マクガキアン

出演 オーラ・ブラディ/ヴァンサン・ペレーズ

シネマ365日 No.2594

私は孤独を選びます 

銀幕のアーティスト

 アイリーン・グレイ(オーラ・ブラディ)は才能に恵まれた稀有な芸術家なのに、男の趣味だけはいただけなかったわ。彼女は育ちがよくて良心的で、人の足を引っ張るとか、人を押しのけて名声を我が物にするとか、野蛮なことができなかったのね。ル・コルビュジエ(ヴァンサン・ペレーズ)はその真逆ですね、少なくとも本作で見る限り。「アイリーン・グレイ孤高のデザイナー」で解説役のジェニファー・ゴフ博士は、「アイリーンはル・コルビュジエを嫌っていた。彼は人に好かれる人物ではなかった」と断言しているし。メアリー・マクガキアン監督はル・コルビュジエのナレーションで映画を進めますが、見事に三枚目にしています。彼自身の口からこう語らせるのです。「1923年アイリーンの展示を始めてみたとき、その革新性に嫉妬し恐れを感じた」。ル・コルニュジエは建築家の駆け出しで、アイリーンは豪華な家具とセレブ層のロイヤル・カスタマを獲得し、華々しく成功していました▼アイリーンは自身建築家で、雑誌を発行するルーマニア人のジャン・バドヴィッチと出会い、二人で住む家をモナコ湾の対岸に設計する。これが彼女の作品で唯一残る「E.1027」です。世界遺産に指定された傑作です。ル・コルビュジエに言わせると「ジャンは私の建築の才能を妬んでいたが、女性に関しては驚くべき才能を発揮した」アタリです。ジャンをアイリーンは最初拒否しています。「私は自由であるために孤独を選びます。仕事に没頭することで危うい人生に溺れることもありません」。強く聡明なスタイリッシュな女性であったと思えます。しかし如何せん、ダメ男を見分けるのは仕事の処理のようにシャープに行かなかった。口がうまく作品もろくにない建築家で、酒と女にだらしない、しっかりした女性に限ってダメ男に惚れるのは洋の東西を問わぬようです。アイリーンは46歳でジャンは23歳、「君のような人が家具だけデザインしているのはもったいない」なんて言われて参っちゃうのね。女もせいぜい20代くらいで男の免疫をこしらえておくべきだわ▼ル・コルビュジエのアイリーンへの片思いは「思いを遂げたい。だが君の心の旋律は違っていた」というのは、アイリーンは歌手のダミアと、続いて画家のロレーン・ブルックスと恋仲でした。「E.1027」を設計する前です。ロレーン・ブルックスはすでに独特の細長い肖像画でパリを制圧していました。彼女は「パリのアメリカ人」大富豪ナタリー・バーネイの恋人でもありました。なんだかもう、このスケールの女性たちにとっては、恋もセクシュアリティも「なんでもあり」ね。ル・コルビュジエは叶わぬ恋に歯軋りする。「私は芸術には確信があるが、愛にはそれほどでもない。私にとって愛と芸術は相容れないものだ」と負け惜しみを言い、だが「アイリーンにとってその二つの境はなかった。愛とアートが、知性と本能が、完璧なハーモニーを奏でていた」。腐ってもル・コルビュジエ。ところが彼は、生身のアイリーンがダメなら、彼女が精魂込めた「E.1027」に取り憑いてしまうのです。