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特集「銀幕のアーティスト」

2018年9月8日

特集「銀幕のアーティスト8」⑧
ザ・ダンサー(2017年 事実に基づく映画)

監督 ステファニー・デイ・ジュースト

出演 ソーコ/ギャスパー・ウリエル/リリー=ローズ・デップ

シネマ365日 No.2596

熱き心に 

銀幕のアーティスト

 よかったわ。ソーコがモダンダンスと舞台照明のパイオニアであり、振り付けの権利(著作権)を最初に取得したダンサー、ロイ・フラーを演じます。19世紀末に光と絹のダンスを発明し、画期的な成功を収めました。一人アメリカからフランスへ。それも支持者であるルイ・ドルセー伯爵(ギャスパー・ウリエル)の金を黙って拝借して、母親の元を出奔した。行動的で野心家で、クリエイトに没頭する熱い心を持っています。本作の振り付けは長年ロイ・フラーの踊りを研究してきたジョディ・スパーリングが担当しました。ソーコにもし無理があるならボディを考えたそうですが「全て彼女が演じた」。ソーコはミュージシャンであり、クリステン・スチュワートの元カノです。雰囲気がロイにぴったりで、ステファニー・デイ・ジュースト監督は「ソーコありき」で製作に入りました▼劇場の支配人に「25歳では遅い、ダンサーは20歳までだ」と断られ雨の歩道にしゃがみこんでいた。そこにマネージャーのガブリエル(メラニー・ティエリー)が通りかかり、ビショ濡れのロイのスケッチを手に取る。「支配人にもう一度言ってみるがそれでダメなら諦めて」。ガブは舞台装置まで自分で考えたスケッチにロイの才能を感じます。「あんな照明には金がかかる」と耳をかさない支配人に「使う金以上に稼げば問題ない」。支配人は二週間の猶予を与え、失敗したら「二人ともクビ」を言い渡す。ガブはロイの才能と成功を信じ、ダンサーとしての危機のときもロイを支えます。ロイの舞台は大成功で、夢だったオペラ座にデビューする。舞台の上のロイは衣装と照明に同化し、そこに別世界を生み出しました。あるときは海の波、あるときは花に舞う蝶、ユリでありときにはコウモリ、花びらを散らすバラ、変容するダンスこそロイのステージの魅力でした。やがてロイは一座を持ち、ダンサーを多数抱える。そのうちの一人にアメリカから加わったイサドラ・ダンカン(リリー=ローズ・デップ)がいました。一緒に踊れるのは光栄だと言いながら、どこかイサドラはロイに批判的です。「あなたのダンスは身体に負担がかかりすぎる」。事実、布の重さを維持するだけでも大変なのに、縦横無尽にステージで変化させるダンスは異常な負荷でした。おまけにドレスを強調するための強い照明でロイは目をやられ、サングラスが外せなくなります。「踊り子の一人が問題を起こしている」という知らせでロイが練習室に行くと、イサドラが下着同様のチュニックでベートーヴェンの7番を軽やかに踊っている。その華麗な躍動にロイは目を奪われます▼肉体的な衰えがロイを苦しめる。筋トレは体を痛めつけるだけだった。離婚してパリに帰ってきたルイに助けを求めます。このルイですが、名門の伯爵ではあるものの、行動とかガッツとか、意欲というものどこかに置き忘れ時代に取り残されたまま、次の新世紀に溶け込めず、いつも薬を持ち歩き暗い部屋にいて(まるでプルースト)、ついには自殺する悲劇的な人物です。イサドラはロイに花を贈り、それが葬儀用のような白いユリで「契約金1万ドルなら戻ります」とメッセージがあった。ロイは一人でステージに立つとき決めますが体は立っているだけでやっと。ガブは中止を言いますがロイは強行する。このシーンの鬼気迫るダンスが幻想的で実に美しい。ロイは意識を失いステージから落下する。急遽幕が降ろされるのですが、ロイは客席が見たいという。再び幕が上がりロイが腰を折って謝意を表すと絶賛の嵐。客席に降りると涙を浮かべ奪い合うようにロイを抱きしめる観客たちでした▼ロイはゲイだった。イサドラが「あなたには貸しがある」というと「ないわ」と答える。たぶん、ロイの誘惑に応えてやった、という意味でしょう。イサドラというのがしたたかに描かれていまして庭の影で「あなたから」というイサドラの言葉に、正直にロイが全部脱ぐと「時間はたっぷりあるわ」いい残しイサドラはさっさと去っていくのです。素っ裸のロイは身の置き場もない。ロイとイサドラのその後に映画は触れていませんが、アーティストとしての二人は対照的でした。一人は負荷のある何重もの絹で踊り、一人はーパリの芸術家たちのサロンの主催者として名高いナタリー・バーネイは、アメリカから来た母親をイサドラの舞台に連れていったところ、彼女がステージで全裸になってしまい「私が見たものをあなたも見た?」と訊いた母親の言葉を面白がって書いています。