女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集 LGBTー映画にみるゲイ

2018年9月13日

特集「LGBT映画に見るゲイ10」262
ヴィクとフロ 熊に会う(2013年 劇場未公開)

監督 ドゥニ・コーテ

出演 ピエレット・ロビタイユ/ロマーヌ・ポーランジェ

シネマ365日 No.2601

なれるなら風がいい 

LGBT

オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」を見ていて思ったのだが、女子刑務所のゲイ関係は特に恋愛感情によるものでもなく、一種の自衛策としてペアでいることが必要なのだ。本作のヴィク(ピエレット・ロビタイユ)とフロ(ロマーヌ・ポーランジュ)は刑務所で知り合い、それなりの関係となり、仮釈放となったヴィクはフロを待ちわびる。ヴィクは61歳。片田舎の森にある叔父のエミールの砂糖小屋に身を寄せた。叔父は糖尿を患い目が見えず車椅子に座ったきり喋れない。近所の青年シャロンが介護に来てくれている。ヴィクには弟がいる。姉に会いに来たが叔父を押し付け二度と訪問する気はなさそうだ。フロが出所した。久しぶりに熱い夜を過ごすが、間もなくフロは「ここ退屈だわ」と言い出す▼人嫌いのヴィクは煩わしい他人との接触もなく、小さいが庭もあり、耕して住み着きたいと思っている。車で少し行けばレストランもある。保護司のサン=ジャンが定期的に観察に来る。満期釈放のフロが仮釈放中のヴィクに接触するのは禁じられているが目をつぶってくれる。シャロンの父親はヴィクがエミールを放ったらかしにして死なせるつもりだと頭から疑い、エミールを施設に引き取らせる。彼はムショ帰りで、人付き合いの悪いヴィクを目の敵にするのだ。「私のどこが好き?」と聞くヴィクに「また聞くの?」フロは面倒くさそうである。「あなたを愛し続けるわ。無償で料理も作るし体も洗う。でも別れたら死ぬ」。フロがここへ来たのは、10年前の仲間の追跡から逃れるためだ。ある日とうとう女ボスに見つかる。いやらしい暴力的な女で、手下の男はバットでフロを叩きのめし、脚を折る▼「私が怪我して嬉しそうね」とフロ。「何もできないし私を頼るから」とヴィク。しかしフロはサン=ジャンにはこういっている「ヴィクの嫌いな点は頑固なことよ。私との別れを怖がっている。出て行くのに理由がいる。怒らせずに話さなければ」。歩けるようになったフロはヴィクに告げる「男も好きだし、仕事もしたい、だから部屋を借りて距離をおくわ。ここを出て行く。あいつらがまたやってくると思うと怖いし」「死ぬときは一緒よ」そうヴィクは言うがフロは離れたがっている。ふたりは帰り道をふさいでいるバンを見つける。不審がって二手から運転席を覗き込んだ途端、枯れ落ち葉に隠してあった熊捕獲の鉄の罠に二人とも足を噛まれた。女が現れ「悪いね、あんた、関係ないのに」とヴィクに声をかけ「でも容赦できないのが私の性分でね」意地悪く笑い「ハイカーが熊の罠に挟まれるのはよくある話。これも事故よ」二人を打ち捨てて去る▼おびただしい出血で次第に気が遠くなる。ヴィクが訊いたことがある。「水と風とどっちになりたい?」と。「死ぬのは一緒だと言ったよね。愛している。なれるなら風になりたい」「まだ血は出ている? なにも聞こえない」。やがてヴィクとフロの遺体が発見された。「最後まで面倒かけやがって」口汚く罵るシャロンの父親に「お前は黙っていろ」サン=ジャンが制し、遺体を車に収容した。そのそばを霊魂となったヴィクとフロがとおりすぎ、森の道を二人で歩いていく。監督はせめてこのラストで、幸せに縁遠かった女二人に癒しを与えたかったのだろう。無駄のないプロセスといい、女優二人の存在感といい、なにものにも恵まれなかった人生への哀憐が、乾いたタッチで描き出さていた。佳品と呼ぶに充分。