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特集「最高の悪役」

2018年9月27日

特集「最高の悪役3」② ティモシー・スモール2
否定と肯定(下)(2017年 事実に基づく映画)

監督 ミック・ジャクソン

出演 レイチェル・ワイズ/ティモシー・スモール/トム・ウィルキンソン

シネマ365日 No.2615

アブノーマルに魅いられた男 

特集「最高の悪役3」

 アメリカ人であるデボラは、イギリス人弁護士チームのやり方に抵抗があります。なぜもっと単刀直入に当事者である自分や生き証人を法廷に出さないのか。アウシュビッツに行って「何を感じた?」とランプトン弁護士に訊くと「恥と恐怖だ。私も同じことを命令されたら、弱さから従っただろう。世の中は卑怯者だらけで、私もその一人ではと。ゲーテが言っている。卑怯者は安全な時だけ居丈高になると」。デボラはいつの間にランプトンがドイツ語を習得していたのか驚きます。ドイツとはホロコーストをやり、その一方でゲーテ、シラーを、ベートーベンやバッハを生んだ国だ。罪を憎んで国を憎まず、の軸足をランプトンはブレさせません。これを一緒くたにしている人々がいかに多いことでしょうか。デボラは次第にランプトンに畏敬を覚えます▼アーヴィングに的を絞った作戦の一つは単独審でした。陪審員ではなく判事に判断を任せるのです。陪審員の印象を操る術に長けた、アーヴィングの作戦を封じるためでした。ランプトン・チームはアーヴィングの著作から矛盾点を洗い出し、ガス室の有無の記述で致命的な錯誤を突きつけます。勝利が目前になった時、裁判長が言った。「アーヴィング氏は心から反ユダヤ主義を信奉している。信念に基づく発言ならウソと非難はできない」。弁護団は突き落とされる。2000年4月11日。334ページに及ぶ膨大な判決文にどちらの勝訴か書かれていなかった。いよいよ裁判長の結論です。「本官には以下の推論が穏当で納得のいくものである。すなわち原告は自らの思想のため意図的に史実を偽造し、歴史的歪曲や改ざんを行ったうえで事実として提示した。故に正義を擁護する当法廷としては被告に有利な判決を下すものとする」。裁判はアーヴィングを歴史の曲解者としました▼アーヴィングは強気を崩さず2001年7月20日控訴ましたが却下され、デボラとペンギン社に200万ドルを超える支払い義務が生じ破産宣告を受けます。2006年オーストリアで逮捕され、ホロコーストに対する意見を変えたと主張しました。彼の「ホロコースト否定」は崩れた。しかしながらここに至るまでの彼の自信はどこから生まれたのでしょう。それがどうにもわからなかった。演じたティモシー・スモールは「彼の人物像は役を深く理解するだけだ。自信に溢れ雄弁で、興味深いのは、人に嫌われても、どぎつい意見を曲げることなく通していることだ。それができる精神を持っている」。ではどんな精神なのか。そこに直面して自分なりの答えを出すのはとても難しいのですが、彼は「アブノーマル」に魅了されたのではないかと思うのです。ノーマルに対するアブノーマル。安定した日常の裂け目から聞こえた黒いささやき。誰しもにあるその一片に、アーヴィングにとっては、ホロコーストという未曾有の悲劇が発破をかけてしまった。飛び散る断片をかき集めながら彼は自分の妄想が膨らむことをどうしようもない。彼を虜にしたのは、ホロコーストは捏造だったという、おののくようなノーマリティの解体だった。もしデボラが看過していたら、彼は虚構の殿堂で狂気の連鎖を書きついでいただろう。デボラは裁判の後こんな言葉を残しています。「ホロコーストの死者と生存者にいいたい。あなたがたは記憶され、苦しみの声は届いたと」