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特集「ベストコレクション」

2018年10月3日

特集「秋たけなわのベストコレクション」③
ハッピーエンド(下)(2018年 社会派映画)

監督 ミヒャエル・ハネケ

出演 ジャン=ルイ・トランティニャン/イザベル・ユペール/ファンテーヌ・アルドゥアン

シネマ365日 No.2621

爺さまを助けろ! 

特集「秋たけなわのベストコレクション」

 イザベル・ユペール扮するアンナにしても、仕事一辺倒で面白みのない女である。彼女はこう言って息子の尻を叩く。「お前は人望もある。未来の社長よ。すべてはやる気次第。わかるわね」「ママ、やめてよ。僕に何ができる。ママならどうする?」「働くわ。ママが助けてあげる」「僕は能なしだ。会社を継ぐ気などないと知っているくせに」。息子は引きこもり一歩手前だがママは困ったふうでもない。彼女の恋人は弁護士で、崩落事故の後始末に当たっている。示談で解決したが、社長である息子を、遺族が散々殴って気がすんだからという、弁護士の能力とはあまり関係ないところで処理された。エロチャットに没頭するトマは、ジョルジュの85歳の誕生日に、チェリストをソロで演奏させるが、彼女こそチャットの愛人であった。「なんでもあり」家族なのである▼パーティ会場にアンヌの息子がぞろぞろ連れてくる移民たちに、招待客は眉をひそめる。ジョルジュ家の面々は表面さえ糊塗しておればエロチャットのアディクトだろうと、やる気のない後継社長だろうと、家族に無関心な母親だろうと、人も羨む一家におさまっているのだ。この現実が退屈でバカらしくて仕方ないのが爺さまと孫娘だ。一人は人生をはかなみ生きる意欲がない。一人は殺しに罪悪感を覚えない少女モンスター。ジョルジュはパーティのどさくさからエヴを呼んで車椅子を押させ、海へ続く坂道に来る。ジョルジュは自分で車椅子を海に進める。孫娘はスマホでジョルジュが沈んでいくさまを撮影する。ジョルジュの腰がつかり、胸まで水が来て、残るは首だけになった。エヴはスマホを離さない。どやどやとアンナと男たちが視界を遮り、アンナはちらっとエヴに視線を投げたが、振り向きもせずハゲ頭しか浮いていない爺様に走りよる。そこでエンドだ▼ハネケは監督デビュー作「セブンス・コンチネント」で家族全員死なせてしまった。「ベニーズ・ビデオ」で少年は少女を虐殺する。「ファニーゲーム」は殺人狂だ。狂気が前面に押し出されるようになったのは「ピアニスト」からだろう。異常性癖の女が(演じたのはもちろんイザベル・ユペール)、恋人に逃げられ、棄てられたとわかって自分で自分を傷つける。「愛、アムール」では狂気は穏やかに殺人に移行する。ジョルジュは生きることを諦めた。本作ではどうだ、ジョルジュは死を求めて滑稽なまでに奔走し、13歳の死の天使に介添えを頼む。ジョルジュは助けられるが、死に損なってガックリしているにちがいないジョルジュを、冷たく見つめていたエヴこそが次のハネケの主人公であろう。ジャン=ルイがインタビューで「人生で一度目を見開けばもはや安眠はできない」と、ピエール・ルベルディの詩を引用していますが、安眠できない、しない、最たる一人はエヴですよ。爺さまが海へ? まったくどこまでお騒がせ男だろう…慌てて飛び出したアンナや息子たち。ハネケはああ見えて爺さまを助けたかったのでしょうね。すべてに「我関せず」のアンナが、血相変えて走っていくところに、ハネケの温かみが出ていました。