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特集「ベストコレクション」

2018年10月4日

特集「秋たけなわのベストコレクション」④
ルイの9番目の人生(上)(2018年 サスペンス映画)

監督 アレクサンドル・アジャ

出演 ジェイミー・ドーナン/サラ・ガドン/モリー・パーカー/アーロン・ポール

シネマ365日 No.2622

危険な蜜 

特集「秋たけなわのベストコレクション」

 アレクサンドル・アジャ監督の最高傑作だわ。批評家の点はよくなかったのですって。いいのよ、そんなこと。彼らがアジャに点が辛いのは、彼が若くてハンサムで才能に溢れ、作品が特異で、いい女優が我先に出演するからよ。本作だってキモはサラ・ガドンです。「ハイテンション」のセシル・ド・フランス、「P2」のレイチェル・ニコルズ、「ピラニア」のエリザベス・シュー、「ホーンズ/容疑者と告白の角」のヘザー・グラハムらが、アタマがよくてしっかりして、危険な香りをただよわせるヒロインを演じました。アジャの作品は「狂気・殺し・錯乱」が3点セットです。アブノーマルの世界こそ、彼がのめり込むホームグランドです▼わたし、アジャを「ホラーの貴公子」と呼ぶのは「ハイテンション」で、従来のホラーのスタイルを変えたと思うからです。それまでは「13日の金曜日」型が圧倒的に市場では強かった。アジャだって血糊コテコテのシーンは山盛りです。セシル・ド・フランスも殺人遺棄死体みたいなメークで、とことん監督の変態ぶりに付き合っていました。でもね、彼の映画にはどこか詩情があるのです。狂気を狂騒にさせない落ち着きと知性が。その意味でも本作はピカイチだわ。冒頭こんな奇妙なセリフで始まります。「僕はルイ・ドラックス。事故多発少年。最初の事故は生まれた時。ママのお腹にナイフを突き刺して、血みどろで引きずり出されたトラウマは消えない。2番目は生後16週目。シャンデリアがベビーベッドの真上に落ちてきて、小さな肋骨が粉々になった。毒蜘蛛や蜂に刺されたり感電死しかけたり、人々には起きないことが僕には起きた。食中毒も年中だった。サルモネラ菌、ボツリヌス菌、髄膜炎、破傷風。去年は叫び続け呼吸が9分間止まった。9歳の誕生日はピクニックに行った。ママもパパも幸せだった。愛が戻ったみたいに。まさか怪物が現れ、事故で命を落とすなんて思っていなかった」。あえて長い引用をしたのは、監督は大胆にも結論をオープニングでばらしているからです▼母ナタリー(サラ・ガドン)は眠る息子に話しかけている「猫には9つの命があるという。魂が身体を離れないのよ。あなたが猫ならもう8つ、使ってしまった。毎年1つずつ。これ以上使わないで」。どこからか正体不明の声が流れ「これは君の9番目の命だ。事故多発少年のミステリーを、一緒に読み解こう」おし、わかった。付き合うぜ。名ストーリーテラー、アジャの腕の見せ所です。例によって登場人物は少ない。父ピエール(アーロン・ポール)、母ナタリー、息子ルイの家族3人と、ルイの主治医パスカル医師(ジェイミー・ドーナン)、女性刑事ダルトン(モリー・パーカー)が中心です。ピクニックに行った日、父親が崖から墜落したまま行方不明になった。ルイは崖下で発見され昏睡、死亡と断定された。母親はパニック状態で息子に付き添い「私とルイは心が通じている。お互いの考えがわかる。この子は特別なの、天使です」と医師に訴える。ルイの意識は生きている。独白する。「問題児を抱えた母親は大変だ。僕はこれ以上ママを泣かせないために」精神科医ペレーズのセラピーに通うが、ペレーズがルイの行動は父親の虐待が理由だと診断しママは激怒、セラピーをストップさせる▼ルイの独白で家族関係があからさまになる。「うちの親は愛し合っていない。お互いに嫌いだ。離婚したいが僕がいるからできない。パパは本当の父親じゃない」。ルイの行動も普通ではない。「処分権」と称し、ハムスターを殺す。ペレーズの質問「なぜ大人の男を嫌う?」ルイ「ママをいじめるからさ」。パスカル医師はホームパーティにナタリーを招いた。美しいナタリーの周りを男たちが取り囲む。パスカルの妻ルイーズは、夫もまたナタリーに惹かれていることが手に取るようにわかる。刑事ダルトンはパスカルに訊く。「彼女とやった?」「いいえ」「やめておきなさい。身のためよ」。ナタリーの闇の部分を感じた女性が三人。パスカルの妻とダルトンそして後ほど登場するピエールの母です。ナタリーに男たちが群がるのは美しいだけではないと、危険な蜜に気づいていました。