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特集「ベストコレクション」

2018年10月6日

特集「秋たけなわのベストコレクション」⑥
ワンダーストラック(2018年 ファンタジー映画)

監督 トッド・ヘインズ

出演 ジュリアン・ムーア/ミシェル・ウィリアムズ

シネマ365日 No.2624

我らが隣人たち

秋たけなわのベストコレクション

 1927年と1977年、二つの物語が50年の時をへて結びつく。主人公は聴覚障害のある少年と少女だ。トッド・ヘインズ監督のソーシャルマイノリティに対する温かい視線と軸足は一貫しています。LGBTをメーンストリームに置く映画作りは、今やジャンルの一つを形成するくらい、一般的になってきています。必ずと言っていいほど有名映画賞の対象になるし、マイノリティに対する社会的擁護と支援は、作るほうにも見るほうにも、(私たち、味方だよ)という旗を振っていれば今の時代向き、とでもいう安心感のようなものまで与えるようになりました。そのうちこの分野の映画は、マイノリティではなくマジョリティになるのではないか▼そんな勝手な危惧の中で、本作はドラマティックでもなく、歴史的事件を扱うわけでもなく、聴覚障害の子供たちが50年後にたどり着いたプロセスを語るのみに終始します。それを叙情的に、ミステリアスなまでに組み上げた映画言語と手法にまず拍手。本音を言うと、いったいどこに着地するのか皆目読めず(それで、それで? どうなる、どうなる?)イライラするくらい引き摺り回されました。ラストに近く、ジュリアン・ムーアが子供の手を引いて博物館で見せる、ニューヨークの壮大なパノラマ模型は、息を飲む美しさです。映画の感動とはストーリーの構成や俳優の演技や、たくさんの要素がありますが、都市、音楽、着るもの、食べるもの、およそスクリーンに登場するあらゆる映像によって美しさを与えることに収斂します。耳が聞こえない少女ローズを演じたミリセント・シモンズは本当に耳が聞こえませんが、彼女の表情のかすかな変化、見つめる視線や問いかけの眼差しに、セリフ以上の豊かな伝達力を覚えました。50年を介して移り変わった大都市ニューヨークの街そのものも、言葉を語らぬ主人公です▼ジュリアン・ムーアは「エデンより彼方に」「アイム・ノット・ゼア」で、ミシェル・ウィリアムズは「ライフ・ゴーズ・オン」で、音楽のカーター・パーウェル、衣装のサンディ・パウエルは「キャロル」でと、それぞれオスカー組が監督と仕事を共にしています。1927年の物語はモノクロ、サイレント映画として撮影されました。ジュリアン・ムーアは1927年のローズの母親、1977年の祖母の二役です。ニューヨークの書店に現れた少年オークスに、ジュリアンが読ませる手紙の内容が、本作の謎解きです▼「私はローズ、この人は兄のウォルター。この物語は焦らずに読んで。私はクィーンズ美術館に15年勤めている。この物語はそれよりずっと前のこと。1927年子供だった私は初めてニューヨークに来た。自然史博物館で学芸員をしていた兄に助けられた。兄は聾唖の子供たちが学ぶ学校を見つけてくれた。私が幼いころ両親は離婚した。学校で印刷屋になるため勉強中のビルと知り合い結婚した。男の子を授かった。みなが健康な子を育てられるかどうか心配したけど、息子は母親との違いを楽に乗り越えた。兄が博物館の展示部門の仕事を見つけてくれた。模型作りが好きだった私に向いていた。やがて1964年の万博計画がスタート。目玉の一つは都市のパノラマ。ニューヨークを完全に再現した世界最大の建築模型だった。私はチャンスを逃したくなくて自然史博物館を辞めパノラマ製作に従事した。夫のビルは亡くなっていた。万博の終了後も人気のパノラマは展示を続けることになり、管理者に雇われた。息子は自然史博物館の最年少のジオラマ設計主任になり、調査のためガンフリント湖へ。そこで優秀な図書館員エレイン(ミシェル・ウィリアムズ)に出会った。あなたのお母様よ」▼「あなたは僕のグランマ?」「そうよ。やがてダニー(息子)はオオカミのジオラマを完成させた。私は今でもよく見に行く。息子が作ったただ一つのもの。あなたのパパは亡き夫と同じ、心臓に疾患があり湖の調査から数年後発作で死んだ。ダニーの葬儀に男の子を連れた女性がいた。エレインよ。ダニーの手紙にあった名前だった」▼「ワンダーストラック」とはダニーがエレインに残した本です。「愛している。ダニー」とメモがあった。この映画には人生を受け入れ、希望を持って生きていく人々が静かに登場する。特にヒロイン、ローズは前向きです。ニューヨークに単身、長距離バスでやってきて兄の勤める博物館に行く。この兄さんがいい兄貴で、耳が聞こえないために学校に行けず両親の離婚後、親戚の家で肩身の狭い思いをしている妹のために、誕生日にはプレゼントを贈ってくれる。マイノリティもマジョリティも私たちの隣人だ。どう生きていくかはそれぞれに任された仕事であり、多様性とは何に属するかでくくるものではなく、何を目指すかを語る物語だ。そんな囁きを耳元で聞いたような気がする映画でした。