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特集「ベストコレクション」

2018年10月8日

特集「秋たけなわのベストコレクション」⑧
犬ケ島(2018年 アニメ映画)

監督 ウェス・アンダーソン

出演(声) エドワード・ノートン/ビル・マーレイ/スカーレット・ヨハンソン/ティルダ・スウィントン/野村訓市

シネマ365日 No.2626

ジゴロの手腕 

秋たけなわのベストコレクション

 「ゆるキャラの哲人」ウェス・アンダーソン監督の作品はほとんど見ました。どんな映画もファンタジーにしてしまう彼の世界観からすれば、遠からずアニメの手法に行き着くのは約束事だったに違いない。うれしいことに彼は日本が大好きだそう。クロサワとミヤザキに多大な影響を受けたとおっしゃる。本作も舞台は日本の架空の都市メガ崎市。ドッグ病が蔓延し、人間への感染を恐れた小林市長が、すべての犬を犬ケ島に追放すると宣言した。半年後、犬捨て場となった島は、痩せて毛並みの色も分からなくなるほど衰えた犬が、怒りと空腹を抱えてさまよっていた。5匹の犬のグループがあった。4匹はペットだったが、ノラ犬が1匹いて、彼チーフはヨレヨレのペット犬たちにいつもカツを入れていた。そこへ少年が小型飛行機を操縦して降り立つ。彼の名はアタリ。護衛犬だったスポッツを探しに来た小林市長の養子だ▼粗筋はここまで。いろんなサイトで書き尽くされているし。それよりウェス映画はどこが、なぜ面白いのか。「ダージリン急行」は母親に会いにインドへ旅する三兄弟。「ライフ・アクアティック」は海底冒険探検団、「ファンタスティックMr.FOX」は人間の横暴に耐えかねて穴倉を守る狐の家族と、野生に目覚めたその仲間だ。「ムーンライズ・キングダム」は、集団に溶けこめない少年と少女が、二人だけの王国を作るために家出、引き戻されるが結局は幸せになる。廃墟となって朽ち果てるそのかみの名門「グランド・ブダペスト・ホテル」。登場人物たちはヘタレ男にわがまま女、律儀で真面目で仕事熱心かと思えば「頑張らない主義」。そのかわり、不思議な粘り強さがあり、失敗してもめげない。しかも全員知性的だ▼スリルなし、ホラーなし、ミステリーなし、平凡な人物が平凡に行動する。見事なまでにゆるキャラだ。それがウェス・アンダーソンの世界なのだと縮めて言ってしまうことは、多分このユニークな監督への侮辱かもしれない。彼の映画の人物たちは劣等感の塊で、それゆえ誰しもの心の底に潜む不安感を「まあ、それでもいいじゃん」と慰撫する。わかりやすいもの、短くまとめたレジュメものが受ける時代に、抵抗なく受け入れられるのがウェス映画だ。長い時間をかけて苦労して理解しようとしなくてすむし、映像は美しい。「単純だけど、奥が深い」と感じさせてくれる。そう、彼の作品の登場人物たちは、評価主義、成果主義の社会で点数をつけられない、あるいはつけにくい人たちなのだ。それが皮肉なことに彼の映画の最弱点を作っている。感動はするが心のどこかで(そうかな?)とつぶやく声がする。精巧な絵本、精緻な模型の感動と同じ世界なのだ。こんなことを書くと「だからファンタジーなンだよ!」と怒られそうだけど。ところがこの人工庭園の美しさは依存する毒を持っていて、人を中毒にさせる。ウェス映画は、つい暖簾をくぐる行きつけの居酒屋のようなもので、足を運ぶのはウェスに騙されたがる私なのだ。ハンサムで知的で冗談好きで、詐欺師みたいなイヤな男。本作の劇中「七人の侍」の早坂文雄の曲がいきなり、まるでレクイエムのように響く。小林市長の風貌がどこか三船敏郎の面影を漂わせていると感じた方はおられないだろうか。臆面もなく少年の仮面をつけてファンタジーを操る男に、チェッと思いながら次作を見てしまう。まるでジゴロの手腕だわ。