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特集「ベストコレクション」

2018年10月10日

特集「秋たけなわのベストコレクション」⑩
ベロニカとの記憶(上)(2018年 ミステリー映画)

監督 リテーシュ・バトラ

出演 ジム・ブロードベント/シャーロット・ランプリング

シネマ365日 No.2628

別れて正解 

特集「秋たけなわのベストコレクション」

 腑に落ちない映画だわ。主人公、カメラ屋を営むトニー(ジム・ブロードベント)が、初恋の女性ベロニカ(シャーロット・ランプリング)の母親から遺産500ポンドとかつての友人、エイドリアンの残した日記を譲られることになった、金の理由はよくわからないが、彼は日記に異常な関心を持ち、弁護士をたどって持ち主がベロニカであるとわかる。しかし彼女は弁護士に内容を話そうとせず、まして読ませもしない。日記をもらいうけたいというトニーの要請は拒否した。トニーは弁護士の元妻マーガレットに事情を話すが、ベロニカの存在を知らなかった元妻は「興味しんしんね。寝たの?」と聞く。いいや。つれないフリを装うが、彼の記憶はベロニカと出会った青春時代にぐいぐい引き戻される▼記憶は変質する、というのが本作のテーマだ。追憶は本人に都合のいいように書き直したもので、当時の事実とは違っている、と映画は主張するのだが。少なくとも後述するトニーの記憶のような、重要な過去の出来事が、忘れられたり書き換えられたりするとは思えない。トニーとは俗物を絵にしたような男だ。大学時代にベロニカに出会い、惹かれ、ベロニカが会ってくれというので両親の家に行った。そこで母親に会う。母親が奇妙な女性で「ベロニカに好きにさせちゃダメよ。振り回されないで」と耳打ちする。トニーが帰るときは玄関まで見送ったが、手のひらを腰の前でヒラヒラさせる隠微な仕草をする。エイドリアンはケンブリッジの哲学科へ進学した。ベロニカはトニーに突然別れを切り出し、トニーはエイドリアンから「ベロニカと付き合っている」手紙を受け取る。「変わらぬ友人でいたい」と書いてきたエイドリアンに「心配ご無用。僕はかまわないよ」と返事したものの頭にくる。煮えくり返ってこう書き直す。後日ベロニカにあって、その手紙を読み、自分の書いた内容に驚愕するのだが、わからないのはここだ。次のような人を傷つける手紙を書いた人間が綺麗さっぱり忘れ、都合のいいように記憶を変質させられるものだろうか。少し長いが全分引用します▼「エイドリアンとベロニカへ。よう、ビッチ。僕の手紙にようこそ。お似合いの二人に大いなる喜びを。君らが泥沼にはまり永遠に傷つきますように。君らに子供ができることを願っている。僕は時間の復讐を信じるよ。だが君らの股座(またぐら)の産物に悪意をぶつけるのは間違いだろう。エイドリアン、彼女とやりたいなら一度別れてみろ。下着を濡らしてコンドーム持参で乗り込んでくるぜ。僕のときはそうだった。ベロニカは人をあやつる女だ。母親にも忠告された。一度母親と話してみろ。いい女だぜ」。呆れ果てる。トニーはストーカーまがいの行為でベロニカに付きまとい、ベロニカは「日記は燃やしたわ」といい、くだんの手紙だけトニーに手渡し、注文したお茶に手もつけずさっさと店を出る。トニーは、あろうことか元妻に読ませるのだ。「ひどいわ」。なんぞといえば彼は別れた妻を頼りにし、彼女の家でワインをガブ飲み、飯を食い、無理やり泊めてもらう。「なぜ僕を捨てた」という質問に元妻は答えない。こんな手紙を書く男は徹底的なエゴイストで自信過剰で、鼻持ちならない身勝手な男だったに違いない。女にはそれがわかったから、ベロニカも妻も別れたのだ。正解よ。だが悲劇はこのあとだった。