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特集「ベストコレクション」

2018年10月14日

特集「秋たけなわのベストコレクション」⑭
修道士は沈黙する(下)(2018年 ミステリー映画)

監督 ロベルト・アンドー

出演 トニ・セリヴィッロ/ダニエル・オートゥイユ

シネマ365日 No.2632

大悪人と修道士 

特集「秋たけなわのベストコレクション」

 ロシェの死の公表を目前に事態は紛糾します。「自殺と殺人と、どっちが市場に及ぼす影響は好ましいか」「殺人です。気の狂った誰かの仕業だとして、我々は無関係だ」などと呆れるような会話が交わされる。だから誰か犯人がいた方が好都合なわけです。警察は手を変え、品を変え修道士を尋問しますが「言えません」で、取り付く島もない。会議室の大型スクリーンに本会議のトップとみられる女性が険しい表情で修道士に詰め寄る。「あなたに告解の内容の公表など求めません。ただ個人を優先できぬ危機に瀕しています」「人の考えは変えられます」「いい加減にして。その態度は文明への挑戦です」「文明に対する考えが違うようです」「折合う気がないのですね」「その通り。ぜひにというなら、あるものをお見せします」とロシェの数式を見せた▼会議は一時休会。大臣たちは「ペーパーカンパニーなどの簿外取引を見つける数式だそうです」「つまりメガバンクの簿外取引が暴かれる」「数式が修道士の手にある限り我々は薄氷の上だ」。そのとき、ドイツの大臣の愛犬が歯をむいて出席者たちを怯えさせた。ロルフという名の犬は、なだめようとした飼い主にさえ唸り声で威嚇する。修道士が近づき犬の頭を撫でた。ロルフは心地よげに身を伏せ服従した。画面の女性が結論した。「もはやこれまで。修道士は数式の意味を理解しています。計画の遂行は愚行です」。報道の内容はこうだった。「ロシェ理事の予期せぬ死を前に、市場再編成に必要な我々の計画を断念しました」。ロシェの葬儀が行われた。参列する大臣らを前に修道士の言葉は厳しい。「あなたがたは主の言われた人々と同じ。鳥かごを満たすように、彼らの家は欺瞞だらけ。そして裕福な者となり、肥えて色ツヤもよく、その悪事に際限はない。孤児の訴えにも耳を貸さず、貧しき者も守らない。主は言われた“罰すべし。民の恨みを晴らすために”。自らの行いについて自問なさることは? 世界中の富などためこめない。サビや木喰い虫や泥棒に任せなさい。良心的な納税をなさる人もいるでしょう。希望を蓄えることです。公正な心と神への敬虔な心も。与えなさい。さらば与えられる。あなたがたは自分の図る秤で測り返されるのだから」▼修道士が帰路の道を歩いている。犬が近づいてきた。「ロルフとかいったね。気にいらんな。ベルナルドはどうだ。よし、行こうか」。かなり寓話的に映画は終わります。ドイツの財務大臣、つまりヨーロッパ一番の権力者の犬が、元の飼い主を見捨て、名前も生き方も変えて新たな方向へ旅立つ。権力者からの解放と別の希望を見出すように。ロシェと修道士は対照的な人生観の元で生きてきました。修道士が人間への愛を象徴する存在であるのに対し、ロシェは利己的に人生を謳歌してきた。告解も神の許しも信じていないが一抹の恐ろしさはあった。もし世界中で数億人の失業者を出す金融政策が決定した場合、それはバンカーとしての正義か。素朴な疑問がよぎる。金とは本来人を幸福にするために運用されるべきものではないのか。どっちみち自分は死んでしまう。仕方ない、大問題は修道士に丸投げしよう…荒っぽい解釈かもしれませんが、大悪人ゆえに、聡明なロシェがそう考えたとしても、ふしぎではない気がします。