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特集「劇場未公開」

2018年10月19日

特集「劇場未公開」⑤
ジョイ(下)(2015年 事実に基づく映画)

監督 デヴィッド・O・ラッセル

出演 ジェニファー・ローレンス/ロバート・デ・ニーロ/イザベラ・ロッセリーニ/ブラッドリー・クーパー

シネマ365日 No.2637

夢の箱 

特集 劇場未公開

 ラストシーンに、ジョイという女性の仕事の目的と実像が的確に表れます。サクセスしたジョイに、貧しい黒人女性が面会に来た。夫と子供を連れている。子供はまだ抱いて歩かねばならない。小さいブラシのようなものが試作品らしい。ジョイは自分の服にそれを当ててみる。「一泊できる? 今日は予定が入っているから明日詳しい話を聞きたいの。ホテルは?」安宿だった。秘書に一流ホテルを指示し移るように手配させ「子供と一緒だからスイートがいいわ。あなたのアイデアはいいものになるわ。一緒にやりましょう」。女性は涙ぐむ。物作りは何のためか。ジョイには明らかなコンセプトがありました。「人を喜ばすものを作りたい」。彼女が作ったモップもそれに続く製品も、掃除、収納など女性が家庭で、台所で、動きやすく楽になるものばかりだった。貧しさからの脱却も大事な仕事の目的だった。でもそれ以前に、ものを作ることは、日の目を見ないで働き続ける女を助け、女が喜ぶものをクリエイトすることが彼女の喜びだった▼それにしてもまあ、家の内外からの逆風はどうだ。テレビショッピング大手のQVCの責任者ニール(ブラッドリー・クーパー)がジョイのモップの放映を決め、カリスマセーラーと呼ばれる男性を担当にした。彼は自分がパフォーマンスする製品が掃除道具だと知ってバカにした。なおざりな販促プロモーションのために、スタジオに備え付けの申し込みの電話は一本も鳴らなかった。「売れなかったのは残念だ」。打ち切りを言うニールにジョイは食い下がった。「彼は使い方を知らないのです」。台所に立ったことも、床もトイレも自分で掃除したこともない男性に、女の喜ぶ商品がわかるはずがなかった。熱意に負けニールはもう一度チャンスを与える▼床のシミを、こぼれたミルクを、トイレの掃除を、立ったままモップに触らずに絞れ、しかも頭部を取り外せば洗濯機で丸洗いできる。手を汚すこともない。ジョイは自分で床を拭きながら訴求した。電話が鳴った。ニールが電話の受け答えを映せとカメラに指示した。「そうです。トイレを掃除したモップを台所で洗わなくていいのです」「品質はどうですか」「一本のモップには91メートルの木綿の糸が使われています」。電話の主はジャッキーだった。商品を知りぬいた二人のやりとりはニーズの核心をついた。電話が鳴り続け、初回で5万件の申し込みを受け付け、持ち時間終了とともにスタジオのオペレーターたちはスタンディングオペレーションで讃えた▼しかし最大のピンチが待っていた。下請け工場の裏切り、コストアップ、デザインの盗用、特許の抜け駆け。資金は尽き、借金は50万ドルに膨れ上がった。父親もトルーディも傷がこれ以上大きくならないうちに自己破産しようという。ジョイは契約事項と特許に伴うあらゆる資料を精読した。夜が明けるなりテキサスへ、下請け工場の現場に飛ぶ。髪を切り、マニッシュな黒いスーツに身を固めたジョイは取引先のトップを呼び出し、インチキを暴き詐欺と横領で訴える、考える猶予を一日だけやると決めつけた。全面勝利だった。彼女はこののち「人を喜ばせたい」物作りで百件以上の特許をとる。ジョイは父親と、仲の悪い姉の面倒を最後まで見た。ジャッキーと元夫トニーは良き助言者としてジョイを支えた。スーパーの駐車場で、ジャッキーと二人でデモするジョイは、無断で駐車場を使ったと訴えられ、トニーの身内は恥さらしだと嘲笑した。トニーはジョイがかわいそうになった。一念発起した彼がジョイを連れて行った人物こそ、元同僚の元同僚、つまり見たことも会ったこともない、テレビショッピング最大手QVCのニールだったのだ▼挫折と孤独と雑用に埋没し、精神を蝕まれていくジョイが、娘と話すシーンがある。掃除用具を売り歩くジョイを学校の生徒たちが「お掃除おばさん」と言って笑うというのだ。ジョイは「お掃除おばさんは悪いことかな。掃除は恥ずかしいことじゃないのよ」と教える。娘と見た絵本のセミの話もしよう。娘「セミは17年間も土の中にいるのよ」「そんなの意味ないわ」そうジョイは言うが17年も地中にいて、地上に出てわずか1週間か2週間で死ぬセミの生態に、渾身の生を見るようになる。グランマはジョイが最初の成功を知った日の夜、息を引き取った。彼女の語りにこうあります。「ジョイに伝えたいことがいっぱいあった。そばにいてずっと見守りたかった」。貧しかったとき「お前は家族のリーダーになるよ」と言ったのはグランマです。家族はもとより、女性のビジネスリーダーとなった孫は、家に帰ってひっそりと箱の蓋を取りました。子どもの頃に作った白い紙の家や垣根が大事にしまわれています。大好きだったグランマがそれを見て喜んだ、ジョイの夢の箱でした。