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特集「意外な代表作」

2018年10月28日

特集「意外な代表作2」⑤ アントン・イェルチン 
チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室(2009年 コメディ映画)

監督 ジョン・ポール

出演 アントン・イェルチン/ロバート・ダウニー・Jr

シネマ365日 No.2646

27歳の死 

意外な代表作

 主演のアントン・イェルチンが19歳でした。彼は27歳で不慮の事故で死にます。上昇気流にあった27歳の青年がプツンと糸を切るように生から離れる。それを知ってからこの映画をみると、幼さの残る整った容貌と細身の体躯はどこか儚げなものを感じさせます。彼の演じるチャーリーは問題ありまくりの高校生。セレブの自宅は豪邸というか、お屋敷というか、一面の広い庭に瀟洒な建物。彼専属のカウンセラーが通ってくる。裕福な家の子弟が将来国家・企業のエリートを目指す私立高校をチャーリーは退学ばかり。成績は優秀なのに、おかしなことばかりするのだ。母親マリリンが校長に呼ばれた。罪状(?)は、校内の男子生徒の運転免許証を、段ボールにいっぱいほども偽造していた。「学校になにがしかの寄付をさせていただきますが」と母親は申し出たが「これは犯罪です」校長は退学を言い渡した▼やがて公立学校に転校。そこはギャング見習いのような生徒が我が物顔にのし歩く下町の学校だ。エンブレムのジャケットにネクタイを締めて登校したチャーリーは、その日のうちにボコボコにされる。でも何を思いついたのか、二、三日のうちにチャーリーは、持ち前の口のうまさと甘いマスクでたちまち生徒の中に入り込む。彼は人生相談を開き、専属の精神科医が処方する薬の転売を始めたのだ。助手は誰あろう、初日にチャーリーを殴り倒したボスのマーフィーだ。「よく眠ってリラックスしたら自信がでる、この薬がよく効く」。何しろ医師の処方箋付きだ。チャーリーは受け付けた症状をそのままカウンセラーに自分の悩みとして訴え、医師が与えた薬を学校に持って行くだけ。彼の人生相談室は男子トイレである。右と左の便座に並んで座る。“患者”とチャーリー。「ちょっと僕も考えてみよう。明日もここにきてくれるかい?」。チャーリーは顔も態度も弁舌も爽やかだ。相談者が便座から立つと、外で待っていたマーフィーが手を出す。相談料は一人1ドルである。男子トイレの前には行列ができるようになった▼チャーリーには妄想癖がある。拍手とスポットライトを浴びて、満場の人々が「チャーリー・バートレット」と叫ぶ。チャーリーは両手を挙げ、歓呼の声に応える。そう、彼の免許証偽造もトイレ相談室も、何らかの注目を集めたい彼の欲望だ。承認フェチなのだ。賞賛と容認を得たくて仕方ない。ひとつ間違えば愉快犯になる怖さを秘めている。男子トイレの前の行列は、いかに友だちにいない高校生が、誰かに相談したくても相手のいない寂しい若者の多いことを思わせる。便座に座って打ち明ける内容は、自分の居場所がない、家も安らぎの場所ではない、親は信用できない、誰も自分を理解してくれない、思春期に誰もが大なり小なり抱えている、悩みとも言えない悩みだ。チャーリーは決して馬鹿にしない。「僕もそんなことがあった。わかるよ。しばらく一人になりたいよね」。一人でほっつき歩いているうちに、腹が減れば家に帰るだろう▼チャーリーにも悩みある。父親は服役中だ。脱税で逮捕され、母親はウツになり、ワインを飲みながらチャーリーとピアノを弾く。陽気に見えるのは鬱屈の裏返ししだろう。チャーリーを連れて面会に行くが、チャーリーはウジウジしてリムジンから出ない。彼こそウツの遺伝子をたっぷり抱えているのだ。同級生のスーザンを相手にチャーリーはめでたく童貞とサヨナラする。青春の一里塚が説教くさくなく、強くもなく、明るすぎもせず、もちろん暗くもならず、そよそよ、さわさわと過ぎる、青春映画の王道を行く。校長がロバート・ダウニー・Jrだ。娘が反抗に手をやく父親で、家のプールにラジコンのモーターボートを浮かべ操縦し、酒浸りである。人はみな大人になったからといって青春のトラウマから脱皮するわけではない。それはつきまわり、どこかで彼や彼女の人生を絡め取る毒を含んでいるかもしれないのだ。依存症にはまった校長や母親が、将来のチャーリーでなければよいが。そんなことをふと考えるのも、アントン・イェンチンが繊細で微妙で、風のような影を全身に落とすせいか。