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特集「ベストコレクション」

2018年11月1日

特集「人形寺に秋たける11月のベストコレクション」① 
眠れぬ夜の仕事図鑑(2011年 ドキュメンタリー映画)

監督 ニコラウス・ゲイハルター

シネマ365日 No.2650

夜は別の世界 

特集「人形寺に秋たける11月のベストコレクション」

 セリフなし、字幕なし、音楽なしの映画、世界の廃墟美「人類遺産」で往生したはずなのに、またもやニコラウス・ゲイハルター監督の「字幕なし、セリフなし」に挑戦。セリフはいくつか入りますが、ほとんど映像だけです。でもね、なんとなくこの人の作品、クセになってしまうのよ。説明がないからスクリーンに何が描き出されているのかさっぱりわからない。わかるのもありますよ、でもほとんどは(?)。だから目を凝らすわけね。登場する人物は何もしゃべらないから、退屈でとっくに寝落ちするはずなのに、(これはなんだろ、なにしているのだろ)と見ているうち、(なんだ、関係ない別のシーンに移っていたのか)なんて(笑)。ゲイハルター監督の視点の特徴は、活動外の世界を捉えることにあります。「人類遺産」では廃墟でした。かつての栄光と活動を失い、時間と空間の中に停止した事物。それは存在するけれど存在しない、実物はあるけれど空虚でしかないものです。限りなく過去の栄光と機能をとどめ、朽ち果てていくものの美しさが凝縮していました▼夜とはあらゆる種族にとって特別な時間。昼の活動を停止し、静けさと暗闇の中で、休息と妄想をはぐくむ時間。孤独への憧れとおののきの記憶を人間に伝えてきた時間。昼に隠された本性を、破廉恥な欲望が音もなくうごめく時間。夜は狂気が目覚める秘密の時間だった。ゲイハルターはこの鉄則を守っています。夜働く人たちの仕事図鑑だから、ちゃんと活動しているじゃないかとおっしゃるかもしれないが、そこにいる彼らは誰もが、我々が昼間見る人間とは違う顔だ。彼らはナイト・ピープルだ。人は夜、別人になる。静かで思慮深く、もの狂おしく、きらびやかになる。いくつものシーンがあります。移民局の管理者が移民集団に立ち退きを要請している。家屋から撤去しバスに乗れと指示する。移民たちは暗闇と寒さの中で焚き火にあたっているが、一人、二人と火のそばから立ちのく。深夜の当直医が未熟児の看護に当たる。両の手のひらに乗るくらいの小さな赤ん坊が、身体中に管をつけてお腹を白いガーゼで巻かれている。EUの国際会議場。欧州議会小委員会だ。誰かが「自国語での発言が不許可なら本会を欠席する」。自国の言葉を認めない会議なんか、何が会議なものか。小国かもしれないが、彼は誇り高いのだ▼何百万の人が夜を徹して浮かれ踊るビール祭り、アダルトビデオのポルノの現場。無人の飛行場で黙々と戦闘機の手入れする整備員。空港のトイレの掃除。葬儀場。多数の棺がレールの上を火葬炉に運び込まれ灰に処理される。作業着の担当者は遺灰を筒状の容器に詰めかえ静かに棚に並べる。夜には深い底が横たわっている。受け入れを拒否された移民は収容センターを出て送還される。非人間的な扱いをされぬよう、渡航に必要な書類を手配し祖国へ送り返すのがセンターの仕事だ。「お国の事情も記事強いけれど、決定は覆せない」。しかし難民はやまない。送還しても彼らはまた戻ってくる。明けた朝がまた夜になるように▼くねくね曲がる道路に沿って続く高いフェンス。ここはモロッコの国境警備。「A20区の国境でアラームが作動した。現場で確認を頼む」「国境フェンスは異常なし」フェンスのそばを黒い広い夜の河が流れている。深夜の駅。一人ベンチに座る青年。夜とは不在と悲しみ、静けさと安らぎが混交し、希望と絶望を孕む時間。安定と均衡と、それがいつ破れるかわからないおののきと緊張を秘めた時間。そんなものが伝わる。字幕も説明もないワンシーンを手掛かりに、人はそれぞれに自分の「夜」を構築する。