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特集「ベストコレクション」

2018年11月3日

特集「人形寺に秋たける11月のベストコレクション」③ 
テレーズの罪(下)(2012年 文芸映画)

監督 クロード・ミレール

出演 オドレイ・トトゥ/ジル・ルルーシュ

シネマ365日 No.2652

情熱のうめき声 

特集「人形寺に秋たける11月のベストコレクション」

 テレーズは免訴となったが、夫を殺そうとした女をまさか家に置いておくわけにはいかない。出て行かせてと頼むが夫は「黙れ。自室以外は立ち入り禁止だ。俺との結婚は財産が目当てだ。君は無用の存在だが一族の人間だ。一人暮らしが好きな妻を時折訪れる夫を俺は演じるよ」夫はテレーズを監禁同様、田舎に閉じ込めます。テレーズはアンヌに手紙を書く。出すはずもない手紙を。「この苦しみの土地。道なき地。あなたもベルナールも単純な一族の人間。恋するあなたを私は憎んだ。あなたは苦しみまでも明快で影がない。私は自分自身を見出そうとし、あなたは家に納まる女。あなたは親が決めた家に嫁ぎ、かつての恋人も私のことも忘れる。あなたや家族にとって私は存在しなかったのと同じ」。孤独がテレーズに張り付いています▼アンヌが無事嫁いだあと、夫は廃人同様に衰えたテレーズから目を背け「自由にしていい」と言います。「出て行ってもいいと?」「そうだ」「パリへ行くわ。ホテルかアパートに住むわ」「好きにしろ」。ここはパリ。路上のカフェで元夫婦が向き合う。「教えてくれ。ヒ素の投入は俺を嫌っていたからか」「松林を独り占めするためよ」「そうは思わない。動機を教えてくれ」「あなたの目に不安や、好奇心や動揺を見たかった。いま表れている。あなたはいつも動機が明瞭ね。隠さず話したかったけど、どんな説明も不正確に思えた」「いつ決心した」「火事の日よ。あなたを殺すのが義務のように感じた。当時の私は役を演じるのが嫌だったの」。自分の混沌とした世界にベルナールを導きいれることはできない。度し難く単純な人間の種族に属するあなたを…とテレーズは思う。彼女は結婚の中に支配や領有ではない逃避の場所を求めていた。家庭的な女として決定的な席を見つけることを急いだ。自分にも正体のわからない不安に対して安心したかったからだ。家族というブロックの中にピッタリはまり込み、危険を逃れたかった。しかしそれをベルナールに話してどうなったというのだろう。ベルナールは彼の馬車と同じ、道幅に合わせてつくられた人間だった。テレーズには夜の松林のざわめきが、どんな嵐より猛威を振るう情熱のうめき声に聞こえた▼「しかし今はわかる。良家との結婚を喜んだ女、あれも私だった。行くの、ベルナール? 私を許してほしい」。ベルナールは切なげに「勘定はすんでいる」と告げ席を立つ。テレーズはややあってのろのろとテーブルを離れパリの雑踏に身を入れた。これからどうするか、何もわからない。わかったのは借着を脱ぎ捨て、初めて自分自身になれたことだ。ゆっくりと歩くテレーズの頬に微笑が浮かんだ。モーリャックは自分が創り出した、もっと言えば男性作家が生み出した稀有な、自我を確立したヒロインにこう呼びかけています。「テレーズよ。幾度、家庭という格子の向こうに、お前が忍び足でぐるぐる歩き回る姿を私は見たことか。敵意のこもった悲しい目で、お前はじっと私を見つめていた(略)、せめてお前を残していくパリのこの歩道の上で、お前が孤独ではないという希望を、私は抱いている」。監督、主演と脇、美しい映像、三拍子呼吸の揃ったいい映画でした。