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特集「ベストコレクション」

2018年11月4日

特集「人形寺に秋たける11月のベストコレクション」④ 
ゲティ家の身代金(2018年 事実に基づく映画)

監督 リドリー・スコット

出演 ミシェル・ウィリアムズ/クリストファー・プラマー/マーク・ウォルバーグ/ロマン・デュリス

シネマ365日 No.2653

身代金を値切る男 

特集「人形寺に秋たける11月のベストコレクション」

 世界一の大富豪になると、人間おかしくなっちゃうのでしょうかね。孫の身代金1700万ドルを「高すぎる。私には孫が14人いる。彼に身代金を払ったら他の孫まで誘拐される」「ではお孫さんに見合う金額とは」「ゼロだ」。記者団はドン引きよ。大富豪の家族も幸せとはいえない。ゲティ家の系譜によれば長男は最初の妻との子(ゲティは5度結婚した)、会社運営を任されたが49歳のときストレスから自殺。三男のユージンは映画女優だった4番目の妻との子。ユージンの二度目の妻はヘロインのオーバードースで死去。誘拐されたポールはユージンの最初の妻アビゲイルとの息子。誘拐から救出されたものの、25歳のときドラッグで体を壊し54歳で病死。四男ゴードンの次男はロサンジェルスの高級住宅街の自邸浴室で原因不明の死。五男ティモシーは12歳のとき脳腫瘍で夭折した。血族はすべてゲティに養分を吸い取られたみたいに事故死・病死している▼誘拐された息子の母アビゲイル(愛称ゲイル=ミシェル・ウィリアムズ)は、義理の父ゲティに身代金を払わせようと奔走・懇願する。ゲティは放蕩息子の孫がローマで狂言誘拐を企んだとみなして耳を貸さない。しかし孫の中でポールは可愛かったとみえる。自分の身辺警護に当たる元CIAのチェイス(マーク・ウォルバーグ)に「早急にローマに行き孫をとり返せ。費用をかけずに」と指示する。ゲティのケチぶりは徹底していて、自邸に来た客のかける電話代が高いから、公衆電話を引き料金は自前で電話させた。ホテルのルームサービスは使わない。洗濯物は浴室で、自分で洗った。ポールの身代金は払ったものの何度も交渉して値切った。しまいに誘拐犯は業を煮やし、別のグループにポールを売り渡し、それでもラチがあかず、ポールは耳を切り落とされた。ゲティが金を払ったのは、孫の耳が送りつけられてからだ▼母親はゲティを「巨人のような敵」とみなす。彼がポールに与えた古代のミノタウロス像は120万ドルの値打ちがあると言っていたが、ゲイルが売りに行くと「博物館に並んでいる観光客用」だった。まさかゲティが真贋を誤るとは思えず、まことしやかにインチキをつかまされたとわかる。ゲティは自分をローマ皇帝ハドリアヌスの後裔だと言い出す。普通の神経ではない。本作の数少ない正気の人物は、息子の奪還に狂奔するゲイルと、彼女と一緒にポールを探すチェイスと、誘拐グループの中でポールとストックホルム症候群(犯人が人質と仲良くなる)を醸す犯人グループの一人、チンクアンタだろう。扮するのが、汚い髭面でわかりにくいが、ロマン・デュリスだ。「スパニッシュ・アパートメント」「ルパン」「ロシアンドールズ」「ニューヨークの巴里夫」「彼は秘密の女ともだち」など、繊細な役が多い。危険を顧みずポールの様子をゲイルに知らせるのに、ゲイル側の対応が鈍くイラつく。耳を切られるポールのそばで「俺を見ろ、しっかりしろ」と終始励ましつづけたのも彼。ロマン・デュリスの役得だったわ。耳を切られてこういうのは気の毒だけど、ポールにしても自業自得な面はあるのよ。学業は投げ出し中退、金に飽かせてローマで一人暮らし、流行のジャケットなんか着て夜の街をフラフラし、娼婦たちに「安くしてくれ」と値切るところなんか立派に祖父譲りね。チェイスはゲティから「君はよくやった。俺のところで仕事をしろ」と勧められても「金は持ちすぎない方がいいから」と断る。ゲティが身代金を払う気がないとわかると、「あんたはクズだ」と言って去る。ゲティが没した後、後継の孫たちは未成年だ。彼らが成人するまでゲティ王国の王座に座ったのはゲイルだ。彼女の元夫はアルコール依存症で廃人同様だった。そのせいかゲイルのゲティ一族を見る目は冷たかった。金に踊らなかった彼女がトップになるなんて運命は皮肉ね。数人の登場人物の身の処し方で救われる。人間あまりガツガツしないほうがいいってことなのよ。でもこういうと多分反対はあるだろうけど、感傷のかけらもないゲティの金銭感覚には、金に動かされるのではなく、金それも莫大な富を動かす側の人間にしかない、ある種の清々しさがあったわ。