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特集「ベストコレクション」

2018年11月6日

特集「人形寺に秋たける11月のベストコレクション」⑥ 
ローズの秘密の頁(2018年 ミステリー映画)

監督 ジム・シェリダン

出演 ヴァネッサ・レッドグレーヴ/ルーニー・マーラ

シネマ365日 No.2655

尊厳を守り抜いた女性 

特集「人形寺に秋たける11月のベストコレクション」

 我が子殺しの容疑で精神病院にとじこめられているローズが、症状の再評価に来た精神科医グリーン(エリック・バナ)に過去を回想し、打ち明ける。彼女は聖書の余白に日記を書き込んでいた。現在のローズがヴァネッサ・レッドグレーヴ、若い時代がルーニー・マーラ。時代は1942年、第二次大戦中の紛争の地アイルランド。叔母の家に避難したローズは田舎で目立ち、青年たちが言い寄る。ゴーント神父もその一人だが、自分の好意になびかず村の青年、マイケルと愛し合ったローズを色情狂だと教会に報告する、性格のヒン曲がった男ね。ところがこの男が裏主人公なのだ。まあぼちぼち行こう。アイルランドと英国は反目だ。イギリス軍の飛行士であるマイケルは、飛行機が墜落しローズの手当を受けるうち好き同士になり、町の教会で結婚する。指輪がないので葉巻のリングで代用した。でも幸せだった▼地元のレジスタンス派の知るところとなりマイケルは逃走する。ローズは妊娠していた。ゴーント神父はローズの精神状態が不安定だとし、精神病院に収容する。ローズは反抗的で病院は拘束衣や水療法やかなりの荒療治で痛めつける。ある夜脱走したローズは身重のまま海へ逃げ、たどりついた洞窟の岩場で出産する。ボートで追ってきた神父が洞窟に入った。ローズの我が子殺人説は、ボートから見ていた警官が、石を何度も振り下ろすローズを遠目に見て「赤ん坊を殺そうとしている」と証言したためだ。ローズは病院に連れ戻され、電気ショックで記憶を消された。マイケルの消息は絶たれた。「マイケルは死んだとしても息子は生きている」。40年間ローズは息子の生存を疑わず「私を迎えに来る」と信じ続ける。「純愛だな」とグリーン医師はつぶやく▼監督も主演も脇もいい俳優ばかり。もちろん作品もいいのですが、今ひとつ物足りなさが拭えないのね。理由のひとつは、ヴァネッサ・レッドグレーヴとルーニー・マーラが主役をやりながら、もうちょっと掘り下げられなかったのか、という恨み。ひとつは、108分の短い尺で前半に時間を取りすぎ、肝心の「洞窟以後」のミステリーの解明が駆け足だったこと。ゴーントは生まれた赤ん坊を養子に出した。養父母は彼を可愛がり、赤ん坊は何不自由なくしっかりした教育を受け育った。ゴーントは大司教となった。なくなる前、赤ん坊の養父に真実を打ち明けた。赤ん坊の母は精神病院にいるローズだ。今はウィリアム・グリーンとなった医師こそローズの息子だった。彼は母親と合わせるべく、彼女の再評価をグリーンにさせるよう秘書に指示していたのだ▼ストーカーの変態神父は、最後までローズから目を離さなかったわけね。これも一種の純愛というべきか。アイルランドは「女が男の目をまともに見ていいのは妻だけだ」という男社会です。ローズは叔母の経営するカフェでそれなりに幸せに暮らしていた。従順と言うより面倒だから波風立てないというように受け取れる。ローズを魔性の女だとか娼婦だとか盛んに言うのは相手にされなかった男たちだ。戦争さえなければローズは平和な家庭を築けたのに違いない。本作は立派な反戦映画でもあります。陰惨なのは精神異常者のラベルを貼られたローズの言動が、全て「狂っている」という判断で片付けられたこと。人権もクソもあったものじゃないわね。非人間的環境で愛だけを信じて生き延びたローズの、驚嘆すべき精神力を演じたのはヴァネッサ・レッドグレーヴならでは、そう思える骨太の演技です。彼女はローズをギリシャ悲劇の「アンティゴネー」に例えています。生きながら地下の墓地に葬られたテーバイの王女です。本作は謎解きの部分もありますが、それに引きずられず、ローズとは自分の尊厳を守り抜いた女性だったこと。その一面こそが今に伝えるべき女性像であり、もっと強調されてしかるべきだった、それですね、物足りなかった正体は。