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特集「ダンディズム-dandyism-」

2018年11月10日

特集「ダンディズム6」④ クリント・イーストウッド2 
15時17分、パリ行き(下)(2018年 事実に基づく映画)

監督 クリント・イーストウッド

出演 スペンサー・ストーン/アンソニー・サドラー/アレク・スカラトス/ジュディ・グリア

シネマ365日 No.2659

映画の品格、人間の品位

ダンディズム特集6

クリントはしつこいほど青年たちの日常のエピソードにこだわっています。ここを抜きにしたら「運命の対処」は説得力がなくなる、そう考えたみたいに。三人は8歳からの幼馴染で、特に優秀だったわけでない。母親たちはいつも校長室に呼び出される。スペンサーの母ジョイス(ジュディ・グリア)はあくまで子供の肩を持ち、学校がなにさ、とばかり息子の手を引っ張って教室を出て行く。アレク・スカラトスの母親も同じ。だから息子たちも多少のことは「なにも気にしない」おおらかな子に育ちました。スペンサーは空軍に憧れるが、アレクから「その体重では無理だな」と指摘され、俄然トレーニングに邁進する。彼は、成績はイマイチだったかもしれないけど、真面目の塊です。絞り込んだ体重で採用試験を受け、見事パスしたが希望の戦闘要員ではなく、後方部隊だった。落ち込みますが、すぐ気をとりなおすところがいい▼アンソニー・サドラーは、この事件の教訓は何かという質問に「人々に知ってほしい。危機に直面した時は誰もが行動すべきなのです」。行動って、犯人にタックルしただけじゃないかと思うかもしれませんが、犯人は300発の弾薬と銃器を持っていたことを考えると、未曾有の列車テロを未然に防いだことになります。一番体の大きなスペンサーが弾丸のようにぶち当たっていった、彼も負傷しますが、二人が加勢し夢中で犯人を殴る、アクションもヘチマもない、ベタな動きがリアルでした。何もしないでいようと思えばおれた状況で、あえて行動したのは「どこにでもいそうな青年たちだった」とクリントはいい、他の映画の場合と同様、オーディションでキャスティングもしたのですが、クリントは初めから、素のままの彼らの「顔がいい」と気にいっていたそうです▼ローマやヴェネツィアの観光やナイトクラブの馬鹿騒ぎや二日酔い、平凡な上にも平凡な青年像をさんざん見せられたあとにやっと「パリ行き」乗車です。本作についてはかなり好意的な評価が多かったのですが、クリントの映画をたくさん見てくると、要所要所を締めて「うまく乗せたな」と思わないでもありません。要所を締めたとはどういうシーンか。例えばここ。スペンサーが感謝の祈りを捧げる言葉です。「主よ、私を平和の道具にしてください。憎しみには愛をもたらし、いさかいには赦しを。疑いには信仰を。絶望のあるところ希望を。闇あるところに光を。悲しみには喜びを。人は与えることで受け、赦すことで赦され、死ぬことで永遠の命によみがえるのです」。クリントがこの清澄なセリフを二度、繰り返し言わせているところに、意図がよくわかるでしょう。彼の映画づくりの主観とは、人間の品位と映画の品格へのこだわりです▼ジュディ・グリアがスペンサーの母役で出演しました。物静かでしゃしゃりでない感じの女優さんです。「キャリー」ではいじめられっ子をかばう体育教師のデジャルダン先生、「愛しのグランマ」は、ものすごく年上の女性詩人を恋するパートナー。クリントの起用によって一皮むけた女優は多いですよ。「ミリオンダラー・ベイビー」のヒラリー・スワンク、「チェンジリング」のアンジェリーナ・ジョリー、「ヒアアフター」のセシル・ド・フランス、「J・エドガー」のナオミ・ワッツ、「人生の特等席」のエイミー・アダムスは、共演した当時82歳だったクリントを「セクシーだと思った」といっていました。