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特集「ダンディズム-dandyism-」

2018年11月12日

特集「ダンディズム6」⑥ ジョン・ローン1 
モダーンズ(1989年 社会派映画)

監督 アラン・ルドルフ

出演 キース・キャラダイン/リンダ・フィオレンティーノ/ジョン・ローン

シネマ365日 No.2661

成金でどこが悪い 

特集「ダンディズム6」

 本作の主人公というなら、贋作画家のニック・ハート(キース・キャラダイン)に、彼の別れた妻レイチェル(リンダ・フィオレンティーノ)でしょうが、ジョン・ローン扮するアメリカの成金、ストーンがいちばん好きです。女の愛を疑い、嫉妬を抑えつつ黙々と女の脇毛を剃ってやるバスタブのシーンなんか、ジョン・ローンのエロティックな沈黙が雄弁だったこと。彼はこの前年に「ラストエンペラー」で苦悩の皇帝・愛新覚羅溥儀を演じ絶賛を得ていました。時代は1926年のパリ。無名の画家たちが集まるカフェ・モダンズに、シカゴからあぶれてきた貧乏画家ハート(キース・キャラダイン)がいた。そこへニューヨークから来た成金セレブのストーンが、いかにもファムファタールといったレイチェルを連れて入ってくる▼彼女はニックの元妻です。仕事に忙しく妻をかまってやれない夫に見切りをつけシカゴを出奔、ニューヨークで「ストーンに拾われた」。ストーンは「ゴム製品で大儲けしたアメリカの成金」で、成金という言葉は劇中何度も枕詞みたいにストーンについて回ります。芸術の都パリに来た、芸術と無縁の男が金で絵画を買いあさり、ニセ教養をまとっている、という侮りがこもっています。ストーンは魅力的だが残酷で、人を殺したという噂もある。ニックは連れの女がレイチェルだとわかり、驚きを隠して「あの女はストーンの何だ」と常連客に訊く。「夫人だ」「ただの噂だろ。紹介しろ」。強引にストーンのテーブルに行き、友人に「僕が書くコラムのイラスト担当のニックだ」と紹介させる。ふたりだけで会うようになったハートとレイチェルは「雪が降った日のことを覚えている? 立ち往生して洞穴で眠り、あなたは凍死してもいい、抱き合う白骨だけが残りドラマティックだと…」「若き日の感傷だ。人生は謎だらけ。君が信じられない」「憎んでいるのね」「憎むほど君を知らない」と甘い回想に浸る▼ニックは妻が失踪してから、仕事は投げ捨て、パリまで来てイラストで糊口をしのぎ、借金だらけで立ち直れない画家。ストーンは正体不明の女を拾い、妻とし、何不自由ない暮らしをさせ、行く先々に美しい妻を連れ歩く。その妻がニックに会ったとたん、様子がおかしくなる。レイチェルにすると、ストーンは絵とか音楽とかさっぱりわからない男だが、暴力的な怖さを秘めている。画廊主の手引きでニックはセザンヌ、ピカソ、モジリアニの贋作を引き受ける。見分けのつかないほどの「傑作」に仕上がった贋作が、ニューヨーク近代美術館に展示され、本物はストーンが燃やしてしまうというオチになる。なぜ妻に付きまとうのだと怒るストーンに、もともと自分たちは夫婦だ、結婚していて離婚していないから今でも夫婦だとニックが説明する。ストーンは打ちのめされて川から飛び込んでしまう。泳げないストーンをニックは助けるが、溺死した後だった▼ストーンに比べたら、ニックはヘタレの食い詰めた画家、レイチェルは男の愛を信じられない、足が地につかない女。こんな連中のために短気を起こすことなどないと思うけど、どこかドストエフスキー的人物がストーンなのよ。成金で何が悪い。金に飽かして一流絵画を買いあさり、レッテル代わりにする男なんてどこの国にもいるわよ。絵画なんて元をただせば装飾品だった。値打ちがわかる、わからない、ではなく、大事にさえしてくれれば本来誰が所有してもいいのだ。金で女を幸せにできるとストーンは思ったのだ。間違っていたとしても誰が笑えるだろう。愛情なんて所有欲の変形かもしれないじゃないですか。リンダ・フィオレンティーノは「甘い毒」の足元にも及ばない、フツーの女に終始しました。キース・キャラダインは耳障りなほどキザなセリフをグダグダ言っているだけ。どっちもジョン・ローンに存在を吸い込まれています。