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特集「ダンディズム-dandyism-」

2018年11月15日

特集「ダンディズム6」⑨ リーアム・ニーソン 
ザ・シークレットマン(2018年 事実に基づく映画)

監督 ピーター・ランデズマン

出演 リーアム・ニーソン/ダイアン・レイン

シネマ365日 No.2664

ニクソンを失脚させた男 

特集「ダンディズム6」

 ピーター・ランデズマン監督が描きたかったのはこんな主人公です。「ディープ・スロートとは誰か、政治史上最大の謎だった。元FBI副長官マーク・フェルト(リーアム・ニーソン)が、死の3年前に自分だと告白したとき、世間は驚いた。全く目立たない無名の男だったからだ。彼が英雄だとは誰も思わない。しかし夕日に向かって飛ぶだけがヒーローじゃない。本物は静かに人知れず死を迎えるのだ。マーク・フェルトのことがもっとよく知られてほしい」。彼を演じたリーアム・ニーソンは「FBI在籍31年、人生をFBIに捧げた魅力的な男だ。穏やかだが目の奥に何か隠していて決して誰にもそれを見せない。たてがみのような銀髪、シミひとつない完璧なスーツの身だしなみなど、外観からも大いに影響を受けた」。シェイプアップしたリーアムは眼光も鋭く「静かなヒーロー」になりきっています▼ニクソンを失脚に追い込んだウォーターゲート事件は、最初民主党本部に忍び込んだコソ泥のように扱われ、注意を呼びませんでした。しかしFBI50年にわたって君臨したフーバー長官が急死した後、長官代理に送り込まれたのがニクソンの親友グレイだったことで、フェルトはニクソンの真意に気づきます。大統領を含む、政治家や官僚の、ありとあらゆる弱みと秘密をFBIは握っている。それゆえフーバーは大統領をも動かす実権があった。ニクソンの真意はFBIを支配し、FBIKGBにすることだ。民主党本部に盗聴器を仕掛けたウォーターゲートの裏には必ずニクソンが噛んでいる。政府の介入を拒んできた FBIの独立をフェルトは守り抜こうとする。彼は懇意な記者を呼び、政府に不利な情報をリークします。フーバーは二人の部下を可愛がっていた。一人は実直なフェルト、もう一人は「闇の仕事」専門のビル・サリバン。サリバンは副長官の座に就き、フェルトは中枢から遠ざけられました▼ウォーターゲート事件は捜査打ち切りを命じられ、葬られようとしていました。権限を取り上げられたフェルトに残された道は一つ。盗聴器を仕掛けたのは誰か。彼は記者にこう訊く。「我々FBIが持つ情報で、起訴につながる内容は? 誰ならいける」「司法長官でしょうか」「大統領はどうだ」「もし嘘をついていたら」「人はみな嘘をつく」「そうなら大統領でもいけます」まずグレイ長官代理が審問を受けることになる。慌てるグレイに「あなたに責任はない、あなたが就任する以前の問題ですから」と物静かにフェルトは言う。審問の席で「ホワイトハウスに命じられあなたが盗聴器を仕掛けたとタイム紙は書いています。あなたの責任は? ポスト紙はウォーターゲート事件の資料をホワイトハウスが破棄したと書いていますが」次から次各紙がすっぱ抜く内部情報はみな事実だ。「大統領顧問からウォーターゲート事件に関してすべての情報を渡すよう求められました。これは命令だと」「誰の命令です?」「大統領です」。侵入事件にホワイトハウスが絡んでいることが明るみに出て事件は一大スキャンダルとなりニクソンは辞任。フェルトも無傷ではおれなかった。退任後の1976年、副長官時代の極左テロ組織「ウェザーマン」に対する捜査で、容疑者宅に不法に家宅侵入することを承認した責任を問われ裁判を受ける。4年間の審理ののち、有罪認定されたが罰金刑となり懲役は免れた。その後就任したレーガン大統領が特赦で赦免した▼しかしこの間に度重なるストレスと精神的な疲労で、妻のオードリーの神経は参ってしまい、夫の拳銃で頭を撃ち抜いた。結婚以来13回の転勤、引越し、友人も作れず懇意な相談相手もいない妻は、夫だけが頼りだったが、夫は仕事に没頭していた。しかも次期長官と衆目の一致するところだった夫は、冷や飯食いに落とし込まれた。犠牲を払うだけの家庭に妻は耐えられなかった。フェルトは、ニクソンは倒したが妻は救えなかった。フェルトは死の3年前、ヴァニティフェア誌に自分がディープ・スロートだと明かした。アメリカ史上最強の内部告発者。一人で大統領を失墜させた男。光と闇のカオスさえ彼はエネルギー源としたのか。95歳の彼は娘に看取られ眠りについた。