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特集「ダンディズム-dandyism-」

2018年11月16日

特集「ダンディズム6」⑩ 栗塚旭1 
「燃えよ剣」(上)(1970年 テレビ映画)

監督 河野寿一他

出演 栗塚旭/舟橋元/島田順司/中野誠也/北村英三

シネマ365日 No.2665

マイノリティの系譜

特集「ダンディズム6」

本作に先立つこと5年、同じ原作者の「新撰組血風録」のテレビ化で、土方歳三のキャスティングが難航した。撮影は目前に迫っている。それまでの土方に、いまいち司馬遼太郎が気にいらなかったと伝聞で知った栗塚は司馬を招いた席に、土方歳三の扮装で現れた。司馬はOKを出した。これで撮影に入れると、スタッフは胸をなでおろした。そんなエピソードを50年後に栗塚は打ち明けている。河野寿一監督が好き嫌いの激しい人で、気に入らない役者は、クローズアップの数を減らしたとか。今から見て、しかし本作の面白いところは、まず28歳の土方歳三にあった。過去に映画化された「新撰組」では、土方はたいてい時代劇の大御所の役で、40代、50代が多かった。これまでとは違う「新撰組」を撮ろうと意気に燃えていたスタッフは、新劇から無名の新人を選び、重要な役に充てた▼正確無比かつ的確な情報を近藤・土方に報告する観察方の要、山崎烝は、舞台出身で映画は経験のなかった中野誠也だった。田舎道場・試衛館の居候、永倉新八役の黒部進も同じだった。スタジオに入ったものの、どこがどうなっているのかさっぱりわからず、近藤役の「舟橋さんがやさしく教えてくれた」。若い役者たちはたちまち意気投合し、本作の撮影は「順調に進んだ」と70歳を超えた栗塚は振り返っている。彼の土方歳三はライフワークとなった。ハマリ役とか代表作とかは、役者にとっていいのか悪いのかわからないが、栗塚はセリフのない場面で、原作を読み込んでいなければつかめなかったであろう微妙なニュアンスを、絶妙のタイミングで演じている。チームワークのよさと解釈の深さで、本作はテレビ映画史上でも指折りのヒットとなった。回が進むにつれ、演技者たちが役と一心同体になっていく有様がますます強まり、ヒットの理由がわかる気がする▼もうひとつ、気がついたのは、土方の鉄板アイデンティティ「節を屈しない」は、いま、誰が受け継いでいるか。社会の風潮、権力の座、金で動くこと、それらに背を向けたアンチ・ヒーローが続々大ヒットを飛ばしている作品は、ハリウッドの女優アクション・ヒロインなのである。本作を見ていればわかるが、江戸時代しかも幕末、動乱の時代に光を当てられる役はすべて男で、女は恋人を殺されて後追い、女であることのハニー・トラップ、無残なばかりに隅に押しやられている。やりたくてもできなかった自己主張、封印された掟破りの快感、抑圧から女たちが息を吹き返したのはハリウッドだった。理屈はいらない、思い切りかっこいい、頭がよくて勇敢で、しかも美しい女を作ってやれ。数少なかったがそんな監督によって、エレン・リプリー(「エイリアン」)は、アリス・アバーシー(「バイオハザード」)は、ララ・クラフト(「トゥーム・レーダー」)は、ダイアナ・プリンス(「ワンダーウーマン」)は、ロレーン・ブロートン(「アトミック・ブロンド」)の概念は肉体を得た。意外かもしれないが、社会の落ちこぼれ、アウトサイダーが主人公だった本作の核は、マイノリティの系譜という延長線上に、華やかな結実をもたらしている。