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特集「偏愛力」

2018年11月26日

特集「偏愛力5」⑧
ベイツ・モーテル3 サイコキラーの衝動(下)(2015年 サイコ映画)

監督 タッカー・ゲイツ他

出演 ヴェラ・ファーミガ/フレディ・ハイモア

シネマ365日 No.2675

崩壊する最愛の息子 

20181125偏愛力7

いちばん難しい役はノーマのヴェラ・ファーミガと思える。彼女は絶えず揺れ動く。子供時代の兄からの性的虐待という傷を抱えながら、家族の結びつきを構築しなおそうとする母親。しっかり者で冷静に息子を見ながら、いつか自分の不安が的中するという、危ない感情の綱渡りをしている。それだけに病気の息子を守らねばならない使命感と、息子の症状が重くなるにつれ、深まる絶望との間で闇は深くなる。長兄のディランの意見が最もだと受け入れ、ノーマンを寝室から遠ざけるが、そばで眠りたいといってやってきたノーマンをやはり温かく抱きしめる。思えばヴェラには「死霊館」はじめ、ノーマルな世界とは違う状況に身を置く女性の役がとても多い。「ギプスの女」はその最たるもので、自ら障害を求めて手足の切断も辞さない、アブノーマルな世界が舞台だった▼ノーマとノーマン以外は「昼の世界」の住人がほとんどだ。エマは難病で、生きられるのはほぼ27歳までと宣告されながら明るく、希望を捨てない。性格が素直で、ノーマンのデートの相手はエマだとわかると笑って送り出す。他の女性だとそうはいかない。息子が刺激的な女によるショックで発作を起こし、潜在意識に眠っている第二のノーマンがいつ現れるかもしれない不安に怯えるのだ。ノーマンに何らかのショックを与える可能性のある女性は、劇中みな殺される。ノーマが手を下すのではなく、ノーマンの思い描く母ノーマに使嗾されるのだ。初体験の相手、ブラッドリーの死は災難というしかない。ノーマンが二言目に「ママが、ママが」というのが耳障りで、二人で街を出ようと持ちかけ、実家に侵入して現金や宝石を持ち逃げし逃走資金をこしらえる。ノーマンとことに及ぼうとすると、行為の途中で彼はうわのそら。ベッドのそばに現れたノーマの幻に怯えセックスどころではなくなる。おまけにノーマンの中に潜むノーマによって、ブラッドリーは不埒な女として殺されてしまう。兄もケイレブのノーマンの嫉妬の対象だ。ノーマンにとって母親の幻は幻でなく現実なのだ。第三者には見えていないノーマと腕を組んで歩き、会話する。リアルな世界におけるノーマは、一方で息子を療養施設で治療させようと理性的に判断しながら、一方では家にとどめておきたい。崩壊する息子を持った母親の内面を、ヴェラは時にエロチックに、時に慈愛の母として演じ分ける。ヴェラの生まれはアメリカだが、両親がウクライナ人。東欧の血を引くせいか、どこか厭世的なムードをかもす。韓国の女性監督、キム・ジナは長編デビュー作「情事セカンド・ラブ」の主役にヴェラを選んでいる。韓国人家庭の中のアメリカ人という設定で、子供を急かされる妻の疎外感が、今にして思えば一見平和な日常家庭で、心が遠くに離れゆく息子を見守る、ノーマの孤独に通じる。