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特集「ディーバ(大女優)」

2018年12月1日

特集「ディーバ17」ロミー・シュナイダー①
すぎ去りし日の…(1971年 恋愛映画)

監督 クロード・ソーテ

出演 ロミー・シュナイダー/ミシェル・ピコリ/レア・マッサリ

シネマ365日 No.2680

私の本気を見せてやるわ 

特集「ディーバ17」ロミー・シュナイダー

 1970年代とはロミー・シュナイダー伝説の幕開けとも言える時代でした。アラン・ドロンと別れ一時どん底にあり、引退同様に思われていた彼女が、本作によって息を吹き返した、というより以後の10年間、フランス映画界を席巻する大女優として生まれ変わりました。カムバックのきっかけとなったのは本作の2年前、アラン・ドロンのプロデュース(むろん主演も)による「太陽が知っている」でした。アラン・ドロンはああ見えて、別れた恋人、ロミーの人生にいつも目配りを忘れていなかった。うまくいかなかった別の男との結婚も、最愛の息子の事故死にも、彼女を仕事で支えてきた。ロミー・シュナイダーという女性には、仕事をさせるのが一番の薬だと知っていたのでしょう。ロミーの葬儀を、表には出ず取り仕切ったのも彼です▼映画の醍醐味には、映画ファンの方それぞれがいくつものファクターをあげられるだろうが、こと恋愛映画に関しては「たらし込み」のうまさに尽きると思えるのです。特に本作は、原題が「人生の出来事」。あまりに日常的すぎて何のことかわからない。男が車で事故死して愛人が取り残された、極端に言えばそれだけなのですが、クロード・ソーテの手にかかると、万巻の書を以ってしても書きつくせない、繊細なヒダが織り込まれる。オープニングはこうきます。エレーヌ(ロミー・シュナイダー)が、バスタオルを巻いただけで机に向かいタイプライターを打っている。BGMもない。ピエール(ミシェル・ピコリ)がエレーヌの背後のテーブルにいる。「何をしているの」「君を見ている」。ピエールは妻のカトリーヌ(レア・マッサリ)と別居中。パリのアパートにエレーヌと同棲し、近々チュニスに移住する計画だ。しかし男には妻子との幸福な日々が時としてよぎる。息子は可愛いし、父親になついている。チュニス行きを延期して息子とのバカンス(当然妻も一緒)を優先させた男に、エレーヌの憤懣は爆発する▼回想が交わる。「なぜ私を好きになったの」とエレーヌ。「年とったブスだからさ」とピエール。今はそんな冗談もやばくなるほど一時の熱は冷めてきた。エレーヌは手厳しい。「あなたはいくらでも口実がある。お父さん、仕事、息子、妻。要するにチュニスに行きたくないのよ。はっきり言わせてもらうわ。私が道路の反対側で倒れていたら、あなたは道を渡るのをためらうわ、年寄りみたいに。家に戻ったらどう。男に食ってかかる惨めな女、それが私よ。あなたを見ると泣きたくなる。私もうイヤなの。あなたを愛するのが」「僕もイヤになった。弁解したり話をするのが。もうやめよう、やめるのだ。別れよう。このままでは僕は惨めになる。いっそ一人のほうがいい」。どっちも相手といると惨めになるのだから助かりません。恋愛の袋小路です。男はいざ別れると決めたのに、女への電話にメッセージを残す。「レンヌで君を待ちわびる」そこで独り言。なぜだ、本気で別れたかったのに…。本来なら付き合っておれないバカバカしい映画なのですけど、そこがそれ、クロード・ソーテの「たらし込み」なのです。浮気した男や女が必ず一瞬、思い出す元カレ、元カノ、元家庭の情景、子供の笑い声、一緒に囲んだ食卓、妻の料理、匂い、行ってらっしゃい、お帰りなさい。晴れた日曜日の朝、台所に射す日の光、日常の断片が豊かな力を持って押してくる。ピエールは「別れよう、もう嫌だ、こんな独占欲の強い女」。その舌の先から「レンヌで待ちわびる」ですからね。クロード・ソーテにはヒーローもヒロインもいない。そのかわり(あ、こういうところ、思い当たる)(そうだった、今思えば悪いところばかりじゃなかった)と、男、女どちらにもある女々しさと優柔不断そして心やさしさを、しこたま思い出させてくれるのです▼ピエールはレンヌに急行する途中、車両事故で重傷を負い病院に担ぎ込まれる。死んだ? いいえ。男はかろうじて残る意識で置いてきた別れの「手紙を破かねば」と思う。エレーヌは病院に駆けつけた。病室からそれを見た妻は、夫が書き残した女への別れの手紙を引き裂く。これ妻の思いやりでしょうか。死んだ今となって女に離別を突きつけるのは酷かなという。ソーテの恋愛映画の名手たる力量は、恋愛において人が永遠を信じるに足る、一瞬の些事をすくいあげてしまうことです。電話のメッセージを聞いたエレーヌが涙して、車を貸してくれと女友だちに頼むところなんかね▼ソーテはロミーにやかましい注文をつけませんでした。ロミーは全幅の信頼をソーテに預けました。本作以後1年のうちに、ロミーは再びソーテと「夕なぎ」を、アラン・ドロンと「暗殺者のメロディ」を、ルキノ・ヴィスコンティと「ルートヴィヒ」を、ヨーロッパ映画を代表する作品に立て続けに出演します。公私とも低迷にあえいでいた彼女とは別人でした。今から私の本気を見せてやるわ…生まれかわったディーバの出現でした。