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特集「ディーバ(大女優)」

2018年12月9日

特集「ディーバ17」ロミー・シュナイダー⑨
地獄の貴婦人(下)(1975年 事実に基づく映画)

監督 フランシス・ジロー

出演 ロミー・シュナイダー/ミシェル・ピコリ

シネマ365日 No.2688

息づかいだけの演技 

DiVA特集17 ロミー・シュナイダ

 名女優が名悪女を演じたものだ。順不同、思いつくまま挙げていくと、▽サド系=ベティ・デイビス「何がジェーンに起こったか」「残酷な記念日」ジャンヌ・モロー「エヴァの匂い」クセニア・ソロ「檻の中の乙女」▽サイコ系=イザベル・ファーマン「エスター」▽イケズ系=ロザムンド・パイク「ゴーン・ガール」「リベンジ・トラップ/美しすぎる罠」ルーニー・マーラ「ウーナ」。しかしながら悪女を演じるにはふさわしい女優のムードと気質というものがあり、例えばオードリー・ヘプバーンが本作をやるとコメディであろう。実力派ケイト・ブランシェットにしても、彼女は本来正義派である。せいぜい悪役はシンデレラの母親であり、賢明な彼女は根っからのド悪ではなく、コミカルに身をかわすキャラを巧みに選んでいる。リンダ・フィオレンティーノの「甘い毒」もよかったが、彼女が殺すのは生かしておいては世の女性のためにならない男だけであった▼シャロン・ストーンは、例えば「氷の微笑」など、あんまり堂々と晴れ晴れしているので、悪の存在というには無邪気でさえある。本作のフィロメーナの狂気の悪に最も親近性があるのは、シャーロット・ランプリングの「愛の嵐」のルチアであり、シモーヌ・シニョレの「乗馬練習場」のドラと思える。ロミーやシモーヌ、ジャンヌ・モローという、ヨーロッパ女優の悪女の系譜に比べ、最近は暴力的な悪女スタイルこそ多いが、その存在にぞっとするようなワル度が小粒になってきた感が否めない。そんな中で気を吐いているのがエヴァ・グリーンだ。彼女が非家庭的キャラを演じることへの偏愛は、首をかしげるほどおびただしい。デビュー当時から軸足がぶれないのは、多分まともな女性の役は断っているからにちがいない。「CAMELOT〜禁断の王城〜」は彼女の激越なヒロインのために、シリーズが途中打ち切りになったくらいである▼とにもかくにもロミーは完投し、さらに自信をつけた。彼女は能面のように無表情で、重いバケツを両腕に下げ、工事人足のように階段を上り下りする。スリップの上にペロンとつけた青いエプロンは、浴びた血が乾いて黒ずんでいる。頭に巻いたターバンだけが醜怪な場面からうきあがる、異物のようにドレッシーだ。ロミーはセリフが少なく、仕草と息づかいと表情だけの演技で乗り切った。悪の女に精彩を吹き込んだのは、彼女の放つ濃密な官能だった。ロミーはかつて言ったものだ。「私はシシーとはまるで別の女」。その言葉を思い出しながら本作を見ると、ロミー・シュナイダーという女優が本性を現しているのがわかる。本作の2年前、ロミーは「ルートヴィヒ」によって4度目のエリザベスを演じ、映画至上最高のエリザベスとして、デビュー以来「おかゆのようにくっついて離れなかった」シシーのイメージに自分で落とし前をつけた。「地獄の貴婦人」のあと、ロミーは「追想」でフランスの国民的映画と評価されるほどの大ヒットを飛ばす。だが死の足音は遠くから徐々に近づいていた。わずか43歳での急逝を思うと、本作の悪魔的な女が二重にも三重にも魂を取り巻き、ロミー・シュナイダーという女優を頂点に持ち上げ、そして逆さまに突き落としたようにさえ思える。