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特集「銀幕のアーティスト」

2018年12月27日

特集「銀幕のアーティスト9」⑤
YARN 人生を彩る糸(2017年 ドキュメンタリー映画)

監督 ウナ・ローレンツェン

シネマ365日 No.2706

無心にただ続ける 

 糸・編む…糸へんには人生の局面が詰まっています。結婚、終活、給料、ご縁、紡ぐ、練る、編纂、だいたい編み上げる作業そのものが生きて行く過程だ。Yarnは名詞では「織物や編み物に用いる糸で天然繊維や造成繊維を紡いだもの」。動詞では「よくできた冒険譚をたっぷり話すこと。面白い話をすること」。本作にはどっちも含まれています。ティナはアイスランドのヤーングラフィティ・アーティスト。「私はフェミニストよ。女性の文化とアートを次世代に残したいの。手芸など、女性の育てた分野の大半はアートとして存在していたわけじゃない、どころかアートとはみなされなかった。ヤーングラフィティとは、ずっと家の中にあった女の手仕事を街に引っ張り出すこと。街のエネルギーは尖った角や灰色だらけ。そこに家から受け継いだ、明るくやさしく、カラフルな女性のエネルギーを持ち込むの」実用アートは魅力的なのに過小評価されている。女の手仕事とみられ、絵画や建築や彫刻、写真や他のアートの下に見られている。実用品であっても芸術として正当に評価されるべきだと主張する。賛成。茶碗や花瓶、食器や花器、実用品であって美しい器物、あるいは着物の柄や織りを芸術として認めてきた日本人には捉えやすい▼ポーランドのオレク。彼女はかぎ編みは「私の言葉なの。私の宇宙に存在しているものを形にするの」そして機関車に掛ける巨大なタペストリーを編み上げた。「編み物は世代に関係ないところが素敵なの。65歳以上でも17歳の高校生でも、一つの目標にために集まり経験を持ち寄る。知恵を出し合い、どんな状況でも素晴らしいものを作る」。ポーランドで浮いた存在だった彼女はニューヨークで新天地を切り開いた。「サーカス・シルクール」の舞台装置は「白い祭壇」だった。シルクールの創設者で芸術監督のティルデは「綿と糸だけの真っ白な舞台を作りたかった。心の声に耳を澄ました。研究者、哲学者、神経学者、心理学者たちに人生の意味尋ねた。口を揃えて言った。欲することや努力をやめた時、人は人生の意味を失う。私が表現したいのはそれだと思った」サーカスのパフォーマーは厳しく単調な訓練を繰り返す。「ロープの上を歩く練習は無意味に思えるかもしれない。でもそれが人生なの。つい別のものに目移りして、一つのことを続けるのは難しい。その努力こそ人生の意味があるのよ」公演のタイトルは「安らぎを編む」(ニッティング・ピース)と決めた▼堀内紀子はネットプレイワークスの共同創始者。20代後半、テキスタイルから出発したが30歳になった時虚しさを感じた。なぜ気が滅入るのか。布は人のために作られた物だった。心地よさとか、体の安全を守るために。私は「人を忘れていた」。ある展示会に巨大なハンモックを出展した。子供が二人飛びのって遊びだした。それまで無表情だったハンモックに命が吹き込まれた。その覚醒が彼女を「人のために作品を作る」に変えた。大きなビルの天井から床までにかかる、編み上げられたハンモックはオブジェではなく子供達が集まり、自分で遊びを考え出す創作の場となった▼「女性にとってアートは厳しい世界よ」とベルリンで壁を覆う巨大タペストリーを編むオレク。「この現場で女性は私だけ。女性が認められないのは才能がないからじゃない。性差別に凝り固まったクソな世界だからなの」。シルクールのパフォーマー、マトレーナは「観客に褒めてもらう自分を忘れようと思った。一人の人間として観客と感情を共有したかった。大急ぎで梯子を登ろうとしている私がいる。実際に見た夢なの。その梯子が崩れかける。だから落ちてしまわないよう、必死で登っていく」なんと因果な夢だろう。編み上げた白い綱の梯子は何と何をつなぐ、あるいは遮断しようとする糸なのだろう▼ティナはキューバにいる。「政治的に不安な状況よ。共産主義の独裁政権。政府を批判すると逮捕。知り合いのアーティストたちは何度も刑務所に入れられている」。彼女はそこでカラフルなタペストリーを織り、街角のあちこちに掲げた。意味は本人にしかわからない。でも美しい色と文様から楽しさや自由を、感じ取ってくれる人は感じ取ってくれるだろう。「創作の源は人生の喜びよ」。一本の糸に託した夢と挑戦を編み上げ織り上げる女たち。糸は自在に姿を変える。何も付け加えなくとも、編むだけで別の物に生き返る。ティナはこう言った「一編み、一編みに意味があるの。人生も小さな歩みを重ねてゴールに至るものよ。完成までを思えば編み目一つはあまりにも小さい。でもそこで心を落ちつけ、前に進むことを学ぶの。ただ無心に続ける先にだけ得られるものがあるのよ」。ウナ・ローレンツェン監督が捉えた、女性アーティストたちの行動と哲学が生き生きしていて奥深い。いいドキュメントです。