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特集「お正月/愛と勇気のわく映画」

2019年1月7日

特集「お正月/愛と勇気のわく映画」⑦
湯を沸かすほどの熱い愛(上)(2016年 家族映画)

監督 中野量太

出演 宮沢りえ/杉咲花/オダギリジョー

シネマ365日 No.2717

死後の目

お正月 愛と勇気のわく映画

 余命2か月とわかった双葉(宮沢りえ)の視線は、すべて自分の死後に移行します。娘の安澄(杉咲花)に「番台に座ってみて」と言う。安澄が番台に上がる。こういうふうに娘は番台に座るのだな、と双葉は思う。娘が学校でイジメにあっている。制服を盗まれた。体操服で行けと双葉はいう。「今日行かなかったら一生負け犬だよ」。「お母ちゃんみたいに、わたし、強くない」娘泣く。程なく亭主の一浩(オダギリジョー)が「安澄、体操服で学校、行ったよ」と言いに来る。双葉はハッと現実の母親に戻る。朝ごはん食べさせていなかった。牛乳を一本ひっつかみ「これ飲ませて」と亭主に追いかけさせる。午後、娘が制服を着て帰ってきた。気の弱い娘がどれほど突っ張ったか、双葉にはわかる。「頑張ったな」と小さく声をかける。お母ちゃんが死んだあともそうやるのだよ、と心に思う。娘は文字通り体を張ってイジメ組から制服を奪い返したのだった▼双葉は銭湯「幸の湯」に嫁入りした。夫は1年前「1時間だけパチンコしてくる」と言ったきり帰らなくなった。以来「幸の湯」には「湯気のごとく店主が蒸発しました。当分の間、お湯は沸きません」と張り紙が出ている。双葉はパン屋のパートで働き、娘と湯の出ない銭湯を守ってきた。余命を聞いて空の湯船に身を隠し泣いた。死ぬまでに3つ、やることを決めた。①亭主を連れ戻し銭湯を再開させる。②気が弱くやさしい娘を自立させる。③娘を産みの母に合わせる。安澄は自分が産んだ子ではない。生まれたばかりの娘がいる今の亭主と結婚したのだ。娘の産みの母は毎年カニを送ってくる坂巻君江だ。探偵を雇って亭主の居場所を突き止めた双葉は、二、三カ月で私は死ぬと教えてつれもどした。亭主が愛人から押し付けられた連れ子の鮎子も引き取る。風呂場の掃除は4人全員でやることと決め、とにもかくにも「幸の湯」からは風呂を焚く煙が立ち上るようになった▼双葉は安澄を君江に合わせる旅に出る。土産物屋と食堂を兼ねる富士山のよく見える町に来た。「あれが本当の母親」だと教え、「挨拶してきなさい」と安澄を置いて車を出す。君江の店に戻った安澄は上手な手話で会話する。「手話ができるのね」ときかれ「母がいつか役に立つから勉強しなさいと言った」と答える。双葉には親子をいつか再会させる日が、ずっと前から視野に入っていたのだ。旅の途中、向井という、あてもなくヒッチハイクしている青年を乗せた。「僕の家は今の母で3人目。目標とか目的を決めたらそこへ向かわなくちゃ、いけないでしょ。旅は飽きたらやめる」「あなたの腐った時間に付き合っていると思うとヘドが出る」と双葉。「サイテーですよね」と自虐ネタにする向井。「日本の最北端を目指しなさい」と双葉は青年に目的地を与えた。「目標を達成できたら報告に行ってもいいですか」「いいよ。でもちょっと早目に来てね」と言って別れる。そして旅の途中で倒れた。入院した双葉にあと一つしたいことがあった。自分の母親に会うことだ。詳しく語られていないが、双葉もまた子供の頃に母親と生き別れになった娘だった。平凡な日常に埋もれていた、それまで気にしていなかった過去に、双葉は自分の「死後」の目を通して向き合います。