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特集「お正月/愛と勇気のわく映画」

2019年1月8日

特集「お正月/愛と勇気のわく映画」⑧
湯を沸かすほどの熱い愛(下)(2016年 家族映画)

監督 中野量太

出演 宮沢りえ/杉咲花/オダギリジョー

シネマ365日 No.2718

もう大丈夫だよ 

お正月 愛と勇気のわく映画

 亭主の一浩がヌエのような性格で、こういうヘタレに得てしてしっかり者の女がつくという定番ケースです。入院した双葉は「あなたの言うことなんか。新婚旅行にエジプトのピラミッドに連れて行くという約束もまだだし」「何年前のこと、言ってるんだよ」。彼は高校を中退した。父親が急に死んで稼業の「幸の湯」を継ぐことになったからだ。風呂の釜を焚く彼の背中には炎の陰になった哀感がある。これに女が惹かれるに違いない。安澄が「お父ちゃんが、これ」と言って小さな三角形の木材を持ってきた。ピラミッドのつもりだ。風呂炊きの木材の破片から作ったに違いない。ここで監督は映画を甘くしない。「こんなスケールの小さな男と結婚したかと思うと涙が出る、とお母ちゃん、言ってた」と安澄が伝える▼双葉の母親の行方を捜していた探偵が報告に来た。以外と近くに住んでいた。「会いたい」今から行くと双葉は力をふりしぼって病院を出る。探偵は車に双葉を残し、くだんの家をピンポン。戻ってきて言いにくそうに「私にはそんな娘はいないと」すっと血の気の引いた双葉は「そうですか。わかりました」。探偵に支えられ家の前に行く。見えた風景は双葉くらいの年頃の女性と、小さな女の子と笑顔を交わす実の母だ。ムラムラと何かがこみあがる。玄瀬戸物の置物をつかんだ双葉は思い切り投げつける。ガラスの割れたような音がする。探偵は双葉をおぶって車に走り戻る。病院に戻った双葉はもう息をしているだけだ。安澄が付き添っているが、握った手を握り返す力もない。夜、ケータイに着信があった。安澄からだ。「ゆっくりでいいから窓から外を見て」。探るように窓にたどり着いてあたりに目を凝らす。病院の庭がある。そこに、家族全員が3段のピラミッドを作っていた。一番下に一浩と探偵と、目標を果たし、幸の湯で住み込みで働くことにした向井青年。二番目の段に君江と安澄。小さい鮎子がちょこんとてっぺんにいる。「生きていたい、死にたくないよゥ」床に崩れ双葉は泣いた▼どうにもこうにも参りました。当社の「まほろば映画祭」で2月に上映します。本作を選んだダイバーシティ研究会メンバーのチョイスに一票を献じたい。たくさんの方に見ていただきたい映画です。りえちゃん、いい女優になりましたね。オダギリジョーが「一緒に暮らして欲しいの」と女に言われ「提案に乗ったのだよ」などと、とぼけたことをぬけぬけ聞かせる、脱社会男を好演しました。母親の出棺のとき、安澄が「ありがとう。もう大丈夫だよ」と声をかける。若き三代目誕生です。これがいちばん双葉の聞きたかった言葉でしょうね。